針灸治療はツボ(経穴)抜きには語れません。そこでツボの効用について複数の本から抜粋し、
  それに私見を
書き加えました。これは個人的な勉強のためのページであるため、その時々で見方や
  考え方も変わっていきます。
  ゆえに
私見については誤りも多いことをご了承下さい。  
 

 

 手の太陰肺経

1.中府

雲門の下1寸。鎖骨と上腕骨の作る陥中が雲門なのでその下1寸。
 

府は腑であり胃の腑を意味し、中はあたる、即ち肺経は胃の中カン
より起こって
まずこの中府に来るのである。

故に中府は肺経と脾経の交会するところ。

腋窩動脈が振れる。経穴概論には「雲門が拍動部にあたる」とあり
鍼灸治療基礎
学でも中府の拍動は微細とあるが、自分は中府の方
が雲門より強く拍動を振れる。

これは個人差があるのかもしれない。

いずれにしても拍動部の場合、深針はしないほうがよい。

腋窩動脈は鎖骨下動脈の続きで鎖骨下縁から大胸筋下縁までを
いい大胸筋下縁
から肘関節までまでを上腕動脈という。

押すと圧痛がある。

肺結核、喘息を主る。

五十肩で挙上不能に肩グウ(大腸経)肩リョウ(三焦経)
天宗(小腸経:肩甲棘下窩
中央)臑兪(三焦経:肩リョウ下3寸)
と併せて著効有り。
肺の募穴なので肺病の反応がよくでる。
募穴は陰にあり兪穴は陽にある。病は募より兪に注ぎ、兪より募に
集まる。

沢田流中府はここより外下方1寸5分ほどの大胸筋外縁付近にとる。

按圧すると痛みあり、針すると肺経にひびく。

いずれにせよ反応をみて穴を決めるべきである。

2.雲門

鎖骨と上腕骨の作る陥中。(モーレンハイム窩)

按圧してもあまりひびかないような気がする。

ここより2寸位下外方の大胸筋中の点の方が圧痛があってひびく。

沢田流の雲門である。

五十肩、挙上障害を治する。

気管支炎、扁桃炎、心臓疾患による顔のむくみに効く。

雲門は「天気(空気)が出入りするところ」の意味。

甲乙経に「刺入7分、灸5壮。刺して甚だ深ければ人をして逆息せしむ」
とある。

「深刺すると肺にあたり気胸を起こすので注意」と鍼灸治療基礎学に
あるが、
ここは第1,2肋間にあたるので深刺しないほうがよい。


3.尺沢

曲池内方5分。皮下に静脈が現れていることが多い。

肺経の穴をとるときは前腕を回外位置にしてとること。(特に尺沢と孔最)

針すると肺経にひびく。肺、気管支に故障のある時よく反応が現れる。

喘息、気管支炎、咽頭炎、肺経沿いの神経痛に効く。

咽の痛むとき、咳頻発時20-30壮灸すると即座に効く。

扁桃炎にも効くが発熱、腫れて膿をもっている場合は30壮位の多壮灸でないと効かない。

尺沢上1寸に上尺沢あり。こちらのほうが圧痛が出ることが多い。

尺沢と上尺沢を比較して圧痛のあるほうを使えばよい。

肺合穴。合穴は逆気して泄するを主る。

類経に「肺実すればこれを瀉す」とあり石坂宗哲はここより瀉血して吐血、喘息

肘痛を治した。荻野元凱も尺沢から瀉血して鼻病、眼病、脳病を治した、とあるが

ここはトウ側皮静脈が通っているので(採血時よく使う)瀉血には注意。

別名鬼堂、鬼のつく穴は精神を鎮静する作用があるので精神病に用いられる。


4.孔最

手根横紋上方7寸。

肘より手根関節まで1尺2寸5分とする説と1尺とする説がある。

沢田流では尺沢下3横指。

沢田流孔最の方が押して圧痛がある。必ず手関節回外位で取ること。

この穴は上下に移動することが多いので、最高の圧痛点または硬結を探す。

上腕骨外側上顆炎の場合も圧痛が出やすい。

痔疾患を主る。痔痛、痔核、痔出血、痔瘻に効く。

慢性痔疾には百会、急性痔疾には孔最を使う。

なお痔疾は孔最の他、秩辺、小腸兪、中旅内兪の圧痛をみて使う。

また肺疾患の変動を主る。喘息にも反応を現し、治効がある。

小児の扁桃腺肥大に著効。母指麻痺にも効く。

ただし取穴が正しくないと効かない。肺経のゲキ穴。

ゲキは血気の深く集まるところで急性病の治療に用いる。

************************************

ゲキ穴

   孔最(肺経)は痔疾に効く  

      温溜(大腸経:蛇頭)は歯痛の妙穴

      梁丘(胃経)は胃痙攣、胃痛の頓挫穴

      地機(脾経)は胃酸過多や糖尿病に有効

      陰ゲキ(心経:神門上5分)は心胸絞窄痛の妙穴

   養老(小腸経)は癰疔に特効がある

      金門(膀胱経)

   水泉(腎経)

   ゲキ門(心包経:曲沢3横指)は心悸亢進の妙穴

      会宗(三焦経)

      外丘(胆経:外果上7寸)は胆経沿いの坐骨神経痛、側頭痛に著効有り

   中都(肝経)

      ふ陽(陽キョウ脈:外果上3寸腓骨後縁)は坐骨神経痛に著効有り

      築賓(陰維脈:腓腹筋とひらめ筋間)は毒消しの名灸穴

************************************

  

5.列欠

腕側上を去る1寸5分。橈骨前縁に沿う陥中。

肘の方から橈骨を摩上して指の止まるところから内側に1−2分入ったところ。

橈骨動脈のすぐ外側で骨が隆起する付け根。押すと圧痛がある。

手を交差させてひとさし指端の当たるところ。

沢田流では更に2寸上、腕橈骨筋の腱に移行するところ。

橈骨前面を摩上して指の止まるところにとる。

これは手関節横紋からほぼ一扶のところ。なるほど圧痛がある。

扁桃炎、咽頭炎に効く、とされているが扁桃炎の場合は尺沢のほうが圧痛は出やすい。

母指痛、項頸の強ばりにも効く。

針すると大胸筋の圧痛がとれるのは妙である。

項頸強にも効く。四総穴のひとつで頭項部疼痛に用いるが、自分は頭痛に列欠を使ったことは無い。

穴が取りにくいことと頭痛は四神聡などを使うためである。

四総穴なのに使えないとは・・・もっと勉強しなければならない穴にひとつである。

四総穴は「肚腹は三里に止め、腰背は委中に求む、頭項は列欠に尋ね、面目は合谷に収む」

肺経の絡穴。分かれて大腸経に行く。


6.太淵

手根関節横紋、橈骨動脈上にとる。

母指痛、関節炎に効く。

長母指伸筋腱、短母指伸筋腱、長母指外転筋腱などの母指筋腱炎の場合、太淵は

ちょうど短母指伸筋腱と長母指外転筋腱(2本は接近しており1本のように見える、
手掌側が外転筋腱)の内縁にあたり、圧痛が出やすい。

母指球筋下縁を指の方に按圧すると圧痛をとりやすい。

母指筋腱炎では太淵と周辺の圧痛をとり針灸を行う。

肺経の兪穴、兪は体重節痛を主る。

一名鬼心。


7.魚際

手根関節横紋と母指球の間の陥凹部にとる。

母指球直下の舟状骨の突起と母指球の間の陥凹部にとる。

ここを押すと圧痛がある。

母指痛に効有り。母指の屈伸不能(弾発指)に陽谿、偏歴と共に灸し著効がある。

母指の弾発指は今まで見たことはなく、多くは人差し指、中指、薬指である。

母指は圧倒的に腱鞘炎が多い。

それも長母指外転筋腱の腱鞘炎が多い。治療は圧痛を取り針灸、そしてアイシング、

手首をよく使う場合は手首にテーピングし、手関節の屈曲伸展を制限することにより

腱の負担を軽くしてやる。円皮針が効果的な場合もある。


8.少商

母指爪甲去る1分。

扁桃腺炎、咽頭炎は瀉血して著効あり。

とあるが自身例では2度とも効果はなかった。

小腸経の少沢(小指外側)の瀉血を併用するとなお効果あり。

これも試したが自身例では効果なし。なぜだろう?

聖済総録に「喉中閉塞し水粒下らざること三日、三稜針を以て之を刺し少し血を

出してたちどころに癒ゆ」とあり、扁桃腺炎でのどが腫れ塞がったのを少商の瀉

血で治した例である。

一名鬼信。

肺経では特に中府や尺沢、孔最に肺疾患の反応が出やすい。

右の肺が悪ければ右側に反応が出る。

面白いのは募なる中府と孔最の両方に反応がある場合孔最に灸すると中府の圧痛が軽減する。
魚際、少商に針しても同様に中府の圧痛がとれることが多い。

募穴は病が集まるところだから治療の効果を確かめることができる。

列欠に針して大胸筋の圧痛がとれるのも、沢田流中府、雲門が大胸筋の筋肉痛時に圧痛が
出やすい場所と一致するからであろう。



手の陽明大腸経


1.二間

食指第二節内側横紋端。

麦粒腫に効く。腫れているものは腫れが引き、化膿しているものは
 

早く膿が出る

「大腸経は人中で左右が交叉して胃経の承泣に交わるため、右の
麦粒腫には左の二間、左の麦粒腫には右の二間を用いる。」と
永沢先生は言っていたが鍼灸治療基礎学にはどちらを取るか書いていない。
合谷の項目には「多くは患側をとる」
とあり、曲池の眼疾患の
取穴にも左右どちらを取るのかについては記述がない。

もし左右交差させて取穴するなら記述がないというのはおかしい。

しかし実際患側の反対側に灸しても効果はある。健側に灸しても
大腸経の気の流れが良くなるので
結果として患側の麦粒腫にも効くとも
考えられるが、現在は患側に行なっている。
ここの灸はかなり熱いが、痕が残らないので良い。

他に小児の便秘、小児疳のむし、扁桃炎、のどの痛みを治する、とあるが
実際麦粒腫以外には使ったことがない。

2.合谷

第1第2中手骨間陥凹部、示指側に按圧するとひびく。

中手骨接合部では橈骨動脈の枝である第一背側中手動脈がふれる。

沢田流では母指伸筋腱の間の拍動部にとる(陽谿のやや前方。)

この動脈は橈骨動脈の手背枝(背側手根枝)で高血圧を診るとき
重要である。

眼疾患を主る。

白内障、緑内障、視神経萎縮、網膜炎、眼底出血、視力減退に効く。

頭痛の頭部充血を下げるのにも効く。

気血を下げる作用のため、妊娠初期に三陰交と併せて針すると
堕胎することがあるという。
気血を下げるといえば脳貧血を起こしやすい肩井も妊娠初期に強刺激で
堕胎した例があると永沢先生は言っていた。
妊娠初期の肩こりの治療には慎重を期すべきである。
ちなみに脳貧血時に使う「手三里」が合谷と同じ大腸経にある
というのはおもしろい。
気血を下げるツボとそれを戻すツボがすぐそばにあるというのも妙である。

母指腱鞘炎には必須(沢田流合谷:陽谿のやや前方。)。

一般の合谷は面疔の名灸穴。手の三里と併せ用いる。

「多くは患側の合谷をとり、1日中こまめに灸する。面疔に限らず癰、
疔の特効穴に小腸経の養老がある。
従って面疔でも合谷、手三里、養老の
三穴を使えば大いに効果が上がる」とあるが実際今までに面疔、癰、疔の
治療をしたことがないので効果は分からない。
また歯痛や頭痛の激しいときこの穴に強刺激を与えると即座に痛みが半減する。

緊急時には強い指圧でも可。示指側に押すこと(跳びあがるほど痛い)

これは痛覚閾値を上げる作用によるもので、合谷と手三里を低周波通電する
針麻酔と同じ原理である。


3.陽谿

母指伸筋腱(長母指伸筋腱と短母指伸筋腱)の間、橈骨茎状突起先端。

陽明経の谿谷なので陽谿という。

母指痛、腱鞘炎に効く。

腱鞘炎になるのは短母指伸筋腱(長母指外転筋腱も同じ所を通る)が多い。


4.温溜

手根関節から肘関節まで1尺2寸として手根関節から5寸。

沢田流では手を交差して中指端が橈骨前面上であたるところ。

肉ゲキ(筋間)にとる(一般の偏歴)

手関節横紋からおよそ一扶である。列欠と同じ高さ。

手関節を伸展させると筋肉が蛇の頭のようになる部分。一名蛇頭。

この蛇の頭は長母指外転筋で、母指を外転させると移動するのですぐわかる。

筋間に取ることが大切。
歯痛を治する妙穴。殊に下歯痛に効く。
口内炎に多壮灸が効く。大腸経のゲキ穴で
急性病に効果がある、ともあるが私は温溜を使って治療した経験は無いので
効果は分からない。


5.三里

曲池下三横指、筋肉陥中にとる。

------------------------------------------------------------------------

この筋肉は長橈側手根伸筋と短橈側手根伸筋であり(経穴概論)、肘を伸ばし手関節を
伸展させるとはっきりわかる。

長橈側手根伸筋の筋腹を押すと母指示指のほうにひびく

筋肉陥中というのは腕橈骨筋と長橈側手根伸筋の間ではないのか?

しかしこの筋間は普段ははっきりしていない。肘を曲げ手掌を横にして手関節を外転させようと
力を入れると腕橈骨筋が収縮するので長橈側手根伸筋との境がわかる。

更に三里を取穴する時は肘を曲げ手掌を横にしてとる、ということから実際この

姿勢で曲池から陽谿まで直線を引くと腕橈骨筋と長橈側手根伸筋間を通る。

以上のことから手三里の位置は曲池下3横指、腕橈骨筋と長橈側手根伸筋の筋間にとることとする。

------------------------------------------------------------------------

初めは上記のように考えたが以下のように変更した。

この筋肉陥中を按圧すると圧痛がありひびくが、「押すと圧痛あり母指食指の方へひびく」
(鍼灸治療基礎学)というより示指、中指にひびく。

ゆえにここに三焦経の穴があるのかと思うと無いのである。

三焦経で一番近い穴でも陽池上5寸の四トクであり、3寸位末梢寄りである。

ところが沢田流では曲池下2寸に四トクをとる。手三里と並ぶ。

また「手に力を入るれば曲池の下に鋭肉起す。その頭に点すべし」とあること

から、腕橈骨筋の筋腹に三里をとり、腕橈骨筋と長橈側手根伸筋の間に

三焦経の四トクをとればいいのではないだろうか?

しかし三里を「筋間にとる」というのに合致しないのが気にかかるが腕橈骨筋と

長橈側手根伸筋の間ではどうみても三焦経だと思う。

面疔の妙穴。

化膿していないものは20−30壮の灸で消散、化膿しているものは早く化膿し治る。
灸は最初熱いときは熱くなくなるまで、熱くないときは熱くなるまですえる。合谷、
小腸経の養老と一緒にすえるとよい。しかし前述のように自身で治療した例は無い。

なお面疔には下イ(アゴの先端)も効くらしい。(深谷灸法)

針により反射的に脳貧血を起こしたとき手三里に針するとすぐよくなる。

いままで脳貧血には足三里を使っていたが、一刻を争うので、ストッキングを履いていると
その上から針をしたこともあった。(すぐ戻さないと頭痛、吐き気等が起こることがあるため)

しかし手三里も効果があればそちらを使えばよい。

蓄膿症、肥厚性鼻炎にも効く。


6.曲池

肘を曲げ肘窩横紋端。下に索状物(背側前腕皮神経)を触れる。

皮膚病を主る。

皮膚のかゆみには足三里と一緒に用いる。

眼瞼炎、結膜炎、麦粒腫の妙穴で、眼が曇っているとき灸するとはっきりする。
曲池に灸して「目がハッキリ見えるようになった」という患者さんは多い。
ただし効果がどれくらい持続するのは不明。

頭痛、肩凝りに誘導的な効果がある。

概して上気するのに効く。

大腸を調えるのに大切な穴で、沢田流では殆ど全ての患者に灸をする。

大腸経の合穴。


-1.臀ジュ

肩グウ下一扶、三角筋停止部の陥中、硬結圧痛を探してとるとあるが
取穴は難しい。正常時にはあまり圧痛は無いように思う。

しわがれ声、扁桃炎、眼疾患(網膜はく離・飛蚊症)に卓効あり。深谷灸法では
謡人結節と呼ばれ
声が出ない場合よく用い特効ありという。


.肩グウ 

肩峰と上腕骨頭の間。肩部の窪みの前方の方。

三角筋は鎖骨部、肩峰部、肩甲棘部の三つに分かれる。

従って肩関節を外転させるとくぼみが二カ所できる。前方が肩グウ、後方が肩リョウ。

皮膚病を主る。湿疹、蕁麻疹など表層の皮膚病に効く。
皮膚のかゆみなどに使うが、肩グウ穴は圧痛が上下に移動することが
多いように感じる。私は圧痛を目安に取穴するようにしている。

五十肩には必須の穴。
ただし五十肩では肩グウと肩リョウの間にあるスジ(上腕二頭筋長頭腱)に圧痛がある
ことも多いのでツボよりも圧痛を探して針灸している。

ただし皮下に橈側皮静脈が走っており内出血しやすいので注意すること。

中風、半身不随にも必須の穴らしい。

大腸経、小腸経、胆経の交会するところ。


8.巨骨

肩鎖関節内側の陥凹部。

肩井より肩端に向かって押さえてゆくと肩鎖関節の叉のところで指が止まる。

そこが穴である。針すると大腸経にひびく。

上腕神経痛、頑固な肩こり、歯痛に効く。

肩凝りの場合、強い圧痛があることがあるが、針の強刺激で脳貧血を起こすので注意。

経穴概論に「深刺は注意を要する」とあるのも同じ理由であろう。

頸肩腕症候群では欠盆とともに顕著な圧痛が現れる。押しても非常に痛い。
欠盆は深針厳禁なので灸が良いと思う。
また、ウェイトトレーニングなどで肩鎖関節炎を起こした場合、顕著に圧痛が出るので
その場合は関節上の圧痛に施灸する。


9.迎香

鼻翼の傍ら3分

というより小鼻の際でよい。

鼻翼は鼻孔の間違いということで鼻孔外3分なら小鼻の際になる。

上歯痛、顔面神経麻痺、嗅覚麻痺、三叉神経痛に効く。 

蓄膿症には針するとよいが、瀉血するといっそう効果有、とあるが
顔面なので
瀉血をしたことは無い。

花粉症には上迎香や晴明から迎香に向かって横刺するとよい。
顔面なので内出血に注意し0番か01番針で慎重に行なう。

なお花粉症には目や鼻の症状が多く、目や鼻は大腸経、膀胱経、胃経

胆経も通っている事から合谷・曲池、承山、足三里、風池の圧痛を

みて併用すると良い。大椎の灸も必ず加えること。

大腸経と胃経の交わるところ。

迎香は名の通り嗅覚に関係がある。

大腸経の特徴は皮膚病の治穴が多いことである。

肩グウ、曲池、手三里、合谷がそれである。

特に三里は面疔の治療に重要であるばかりでなく、予防にも効く。

「皮膚は肺、大腸に属する」という内経の説と一致する。

実際大腸に障害があるものに皮膚病疾患が多い。

又、蕁麻疹や湿疹には肩グウの灸がよく効く。

なお肩背部に灸するときは必ず曲池に灸すべきである。

そうしないと上気して頭痛や歯痛を起こすことがある。(鍼灸基礎学)

曲池は逆気を引き下げる穴だからであろう。




足の陽明胃経


承泣

瞳孔正中直下7分。
 

羞明流涙に針して効果あり。

甲乙経、明堂には禁灸、資生経、銅人経には禁針穴とあるが、
針は浅刺なら可。
しかし個人的にはこの穴は
使わない。ドライアイや流涙には
膀胱経の晴明を使う。


四白

目下1寸、頬骨の陥部にとる。この陥部は眼窩下孔で三叉神経の
第二枝上顎神経の
眼窩下神経が出る。この神経は上歯槽神経となり、
歯髄、歯肉、歯根膜に分布する。


巨リョウ

鼻孔の傍ら8分にとる。迎香の外3分のところ。

押すと上歯にひびく。上歯槽神経にあたるので、針すると上歯全体に
ひびく。

針して上歯痛に効く。三叉神経痛、顔面神経麻痺、蓄膿症にも有効。
ここは間接灸をしても気持ちがいい。


地倉

口角の傍ら4分にとる。顔面動脈が通っているのでわずかに拍動が
振れる。

鍼灸基礎学には「三叉神経痛、顔面神経麻痺に針、灸して
著効がある」とある。
確かに顔面神経麻痺に針灸は効果的であるが、三叉神経痛の
場合、
針刺激により痛みが
誘発されることがあるので注意。
深谷灸法では「三叉神経痛に限っては痛みのある患部に
触ってはいけない。痛みが余計にひどくなる。
背部圧痛点をさぐり治療すること」と書いてある。

私の数少ない臨床例でも患部の施術で良くなったことは無くかえって
痛みを誘発することが多いようである。

三叉神経痛の場合、口角周辺に痛みを訴えることが多く、話したり
食べたりすると特に痛む。

灸は小さくゴマ粒位にする、と鍼灸基礎学には書いてはあるが私は
怖くて患部に触る勇気は無い。
なお三叉神経痛の原因には脳深部で動脈硬化を起こした動脈による
三叉神経の圧迫があげられ、病院では神経ブロックや手術
(神経血管減圧術)の治療となる。
三叉神経の痛みは激しいため、患者さんのQOLを考えた場合、針灸適応か
否かすみやかに判断し病院での治療を勧めることも必要と思う。


大迎

下顎隅より口角に達する直線の中点にとる。骨陥中で顔面動脈を振れる。

ここに針すると下歯全体にひびき、下歯痛に効く

下歯槽神経は下顎孔を通って下顎骨に入る。

また、大迎前方のオトガイ孔も下歯痛に著効がある。横刺すると良いようである。
急な歯痛には刺針が効くのでたびたび助かっている。

オトガイ孔からはオトガイ神経が出て付近の皮膚に分布する。


1.下関

頬骨下縁。口を閉じれば穴有り、口を開くと穴なし。

圧すると上歯又は下歯にひびく。

三叉神経の第2,3枝の経路にあたる。

歯痛を治する。針6,7分で目的を達する。

顔面神経麻痺、三叉神経痛にも効くとある。私は顔面神経麻痺や歯痛には下関を使うが
三叉神経痛には使わない、というか使えない。

顎関節炎で口を充分開けない場合に針灸して著効がある。
下関とその周辺の圧痛を取って施術する。

胃経と胆経の交会するところ。上関(客主人)は胆経。


2.人迎

喉頭隆起と平行、傍ら1寸5分、胸鎖乳突筋前縁の脈動部。

人迎の深部は頸動脈洞にあたる。頸動脈洞は総頸動脈が外頸動脈と内頸動脈に分かれるところで、
通常膨隆している。頸動脈洞では血管壁が他部より著しく薄いがこれは中膜が薄くなるためである。

頸動脈洞は舌咽神経の特別の枝、洞神経あるいは頸動脈洞枝によって支配され、そこを流れる
血液の変化により反射的に血圧降下を引き起こすことにより血圧を調整している。

人迎に1−1.5センチ刺針すると喘息、高血圧に著効がある。

この部の刺針には充分な注意が必要で強刺激は良くない。

坐位で刺針して頸動脈にあてると脳貧血や徐脈を引き起こすことがある。

必ず仰臥位で刺針すること。

甲乙経に「刺して4分、過って深ければ不幸にして人を殺す」とある。

頸動脈洞刺は技術に自信がない限り使用すべきでないと考える。

永沢先生の行っていた人迎洞刺は、頸動脈ではなくその後方にある第4,5頸神経に針をあてて
腕にひびかせることを目的としている。ゆえに刺針場所は頸動脈ではなく人迎より2横指位下の
胸鎖乳突筋の筋腹である。ひびかせるのはなかなか難しいが頑固な手のしびれに効果を示す
ことがある。ひびいたら、合谷と通電する。

永沢先生は頑固な手のしびれに指先から梅花針で瀉血し、血を絞る治療をよく行う。
ある程度絞ると血が出なくなる。

絞って出た分が鬱血していた血であるという。

なお、梅花針・三稜針を使用する場合は必ず患部を希ヨードチンキで消毒すること。

なお「瀉血」は西洋医学用語であり「瀉血している」と言うと外科手術扱いになり、医師法違反になる
という指摘がある。

東洋医学的には「刺絡」と言えば外科手術にならないのでOKらしい。
やっていることは一緒なのに・・・ややこしい。


3.欠盆

鎖骨上窩中央、乳頭線上にとる。鎖骨下動脈が深部を通る。

経絡が多く通り、五臓六腑の道と為す。大腸経、小腸経、三焦経、胆経が通る。

このように大事な穴であるが沢田流では殆ど用いない。

肺尖部なので針注意。

肺の先端の肺膜頂は第1肋骨より3−4cmも上で第7頸椎まで達する。

一般に右側が左側よりも少し高い。

前方から見ると鎖骨の内側1/3の部分で肺尖は鎖骨より上部にあるので注意。

後方から見ると殆ど肋骨内に収まっているので針先を体の中心部に向けなければ心配はない。

以上のことから欠盆の内側には肺尖があり、針はしない方が無難である。

ここは肩こりや寝違え、五十肩で圧痛が出やすい箇所である。
灸で筋肉を緩めてやると痛みが緩和することが多い。

 

肺がんと欠盆

肺がんで、鎖骨上リンパ節転移があると欠盆のあたりにグリグリしたリンパ節が触れる。

鎖骨上リンパ節転移は肺がんのステージVにあたるのですぐ医療機関を紹介すべきである。

ちなみに肺がんのステージは以下のように分類される。

T:腫瘍の広がりN:リンパ節転移M:遠隔転移の組み合わせでステージを決める。

T1:3cm以下          N0:リンパ節転移なし

T2:3cmより大きい       N1:肺門部リンパ節転移

T3:周辺臓器への浸潤     N2:同側縦隔リンパ節転移

T4:重要臓器への浸潤     N3:対側縦隔リンパ節転移・鎖骨上リンパ節転移

 

なおMの遠隔転移があればステージWとなり
手術は無理である。

ステージT〜Vは手術適応である。

したがって欠盆にグリグリを発見したらステージV
以上である可能がある。

なお、個人的なことになるが空きっ腹にジュースやビールを飲むと欠盆が痛くなることがある

この痛みは15-30分位で収まるがけっこう苦しくてしばらく飲食できないこともある。
押すと欠盆に圧痛がある。

これは胃に急に冷たいものや刺激のあるものが入ったため胃経の欠盆に反応が出たものと
思われる。

************************************

圧発汗反射(pressure-sweating reflex)

一側の皮膚に圧迫を加えるとその側の発汗が抑制される。これを半側発汗といい

側臥位では下になった半身で発汗が抑制される。

一側側胸部に圧迫刺激を加えると同側の発汗が抑制される。両側側胸部を同時に

圧迫すると両半身の発汗が減少し、下半身の発汗が増加する。

この半側発汗は温熱性発汗だけでなく精神性発汗でも認められる。

以上のことから

@脇の下5cm位の所を押さえる−−押さえた半身の汗を抑えることができる。

A乳頭上5cm位の所を押さえる−−上半身の汗を抑えることができる。

B腰を押さえる−−下半身の汗を抑えることができる。

ただし押さえない方の側は発汗量が増加する。

************************************


4.不容

巨闕外方2寸、肋骨端。

嘔吐、胸脇苦満、心悸亢進、胃酸過多に効く。

胆石の場合、右不容ならびにそこから上方2横指の上不容が著効あることが多い。

鍼灸説約に「この穴、膈膜の拘急を緩める(横隔膜のつかえを緩和する)。針1寸5分、
留めること20呼吸。かすかに左手を揺動し、針を活動せしむれば、針して後に胸腹快濶
(かいかつ:気持ちよく広がること)を覚える。」とある。

胸腹がつかえたような感じの時に効くようである。

なお、不容内方1寸5分の幽門(腎経)は嘔吐、咳、気管支炎等に効く、とあり

巨闕は心臓疾患(心痛、心悸亢進)、胃酸過多、胃痙攣、食道狭窄、喘息、咳に効く、とある。

以上のことから、巨闕(任脈)幽門(腎経)不容(胃経)は殆ど主治が同じであることが分かる。

横のラインが同じで主治が同じということは、経絡ではなくデルマトーム(皮膚文節)による効果であろう。

ということは、胸痛、嘔吐、胃酸過多、咳等の時は巨闕から横のラインを探り、最も圧痛がある所を
治療すればよい、ということになる。

腹部については正中に任脈、外方5分に腎経、と陰経があり、外方2寸に陽経の胃経、そして
その外方に陰経の脾経と肝経、と陰陽が交錯している。本来なら腹部は陰経だけにしたかったの
だろうが胃経が間に入ってしまったのである。

胃経も胆経のように体の外側を通っていれば何の問題もないはずである。

なぜ胃経が胆経のように体の外側を通れず、陰経の間に入ってしまったのか?

引き続き研究しよう!


5.梁門

中カン外方2寸。陰都(腎経)外方1寸5分。

中カンを助け胃の諸病に効く。

胃炎、胃下垂、胃アトニー、胃潰瘍、膨満感を治する。

中カン、胃兪、脾兪に針灸しても効無きとき梁門を加えると著効を示す時有り。

胃癌ではここに硬固物を触れることがあるというが個人的には経験なし。

胃潰瘍はここに圧痛を示すことが多い。胃潰瘍の圧痛点

胃酸過多には上カン、巨闕の方が効く。

門は出入りするところ、病状の現れるところで、治療の要点。

中カン、陰都、梁門の三穴も同じ横のラインで主治もほぼ同じ(胃疾患を主る)。

従って圧痛を取り穴を決める。


6.滑肉門

水分外方2寸、天枢の上1寸。司天の穴といい、人の臍以上の病の現れるところで治療点でもある。

沢田流では骨肉門という。(針灸抜萃にも骨肉門とある)

骨は腎に属し、肉は脾に属す、故に骨肉門は腎と脾を治す。

腎臓炎、腎盂炎、消化不良、十二指腸潰瘍を治する。

天の寒気が風門より膈、肝、脾、腎に入るときは骨肉門に反応が現れる。ゆえに

風邪が内蔵に入ったのをとるには最も良い治穴である。

実際感冒の場合に骨肉門あたりに腹筋の緊張と圧痛が現れる。

水分(任脈)は利水を主り、胃内停水、小便不利、腎臓炎、水瀉性下痢に効く。

水分の主治も腎と脾を治すものである。

従って水分と滑肉門は同じ主治と考え、反応をみて取穴すべきである。


7.天枢

臍外方2寸。

大腸の病を主る。大腸経の募穴。

下痢、便秘、腸炎、腎炎、腎盂炎に効く。

鍼灸説約に「不容から天枢までの穴は皆腹痛を治する。腹痛に三種有り。

刺針2-3分で治すもの、6-7分で治すもの、1寸以上で治すものの三種。

病浅くして針深ければ痛み増し、病深くして針浅ければ邪気が旺盛になる。

針の深浅をよく察して病を悪化させることの無いように。」とある。

沢田氏は「天枢以上を人の天、天枢以下を人の地とすると、天枢は天気と地気が交錯する所
なので重要な穴であり、天の寒気と地の寒気が天枢で相打つものを傷寒という。」と言っている。

臍の横のラインには神闕(任脈)外方5分に肓兪(腎経)外方2寸に天枢(胃経)

外方3寸5分に大横(脾経)があり、主治は

神闕:激しい下痢、激しい腹痛、小児消化不良

肓兪:腎臓病(腎炎、腎盂腎炎)、急性慢性下痢、胃下垂

天枢:下痢、便秘、腸炎、腎炎、腎盂炎

大横:便秘、腹膜炎、月経困難症

となり、ほぼ同じである。

沢田氏は「神闕には紙を敷き臍を押してくぼみを作り塩を盛ってその上に灸する。

ゆえに神闕は灸しにくいので代わりに肓兪、天枢、滑肉門、大巨に灸するのである」と言っている。

従ってここでも消化器疾患、腎臓疾患の時は反応をみて穴を決めるべきである。


8.大巨

石門外方2寸。天枢下2寸。

沢田流では気海(臍下1寸5分)外方2寸にとる。

大腸の病を主る。下痢、便秘、腸炎に効く。

また、腎臓炎、腎盂炎などの腎疾患にも必須の穴。

子宮内膜症、月経不順など婦人科疾患、膀胱炎などの下腹部の病に効く。

精力減退、陰萎にも効く。
婦人科疾患や泌尿器疾患を患っている患者さんで下腹部が冷たい人がいる。
こういう場合はたいてい臍周辺や下腹部に圧痛があり、そこに施灸することで
だんだんと冷えがなくなり、それに伴って疾患も軽快することがある。
灸のほかに大腸の方向に沿ったマッサージも有効である。

人における臍以下の病気の現れるところであり治穴でもある。

滑肉門(司天)に対し在泉といい、滑肉門と大巨計4穴を四霊の穴といい、

腹部経穴のうちでも特に重要な穴である。

横のラインの穴は石門(任脈)四満(腎経)大巨(胃経)

石門:三焦募穴、下焦の病(腸、腎臓、膀胱、生殖器疾患)に効くが堕胎穴として知られている為
あまり用いられない。気海を用いることが多い。

四満:腹部冷感、慢性腎臓炎に用いるが、平常あまり用いない。

大巨:下痢、便秘、腸炎、腎臓炎、婦人科疾患、膀胱炎

やはり主治はほぼ同じである。


9.水道

関元外方2寸。

下腹部の諸疾患、殊に膀胱、子宮、尿道の疾患に効く。

水道は水の道、従って腎臓、膀胱と関係がある。

横のラインは関元(任脈)気穴(腎経)水道(胃経)

関元:小腸疾患、下腹膨張感、尿意頻数、月経痛、子宮内膜炎

気穴:膀胱炎、尿道炎、月経不順、子宮筋腫

水道:下腹部疾患、膀胱、子宮、尿道疾患

やはり主治はほぼ同じである。


10.帰来

中極の外方2寸

男女泌尿生殖器疾患を主る。膀胱炎、尿道炎、子宮内膜症、子宮筋腫、月経不順

陰萎、夢精などに効く。

横のラインは中極(任脈)大赫(腎経)帰来(胃経)

中極:膀胱炎、尿道炎、子宮内膜症、月経痛、腎臓炎、坐骨神経痛、小児夜尿症

大赫:膀胱炎、尿道炎、尿意頻数、陰萎、月経痛、子宮筋腫

帰来:膀胱炎、尿道炎、陰萎、月経不順、子宮内膜症

以上のように主治はほぼ同じである。


11.気衝

帰来の外下方1寸5分、大腿動脈が振れる。

一説に曲骨外方2寸。しかし上記の穴の方が使用頻度多くそれを採用。

腹膜炎、鼠径部の神経痛(陰部大腿神経、大腿神経、外側大腿皮神経)に有効。

気衝から髀関にかけて(大腿を屈曲する時しわができる所)は大腿神経痛の時や腰痛、
膝痛をかばって歩いたりすると痛くなることが多い。

この時は灸が有効であり、動脈上は禁針灸穴になっているが、無痕灸ならば問題はない。

逆に灸をしないと治らない場合が多い。


12.髀関

鼠径部横紋外端、強く押すとうっ!と足が縮み上がる痛みがある。

外側大腿皮神経が表層にでてくるところである。

縫工筋と大腿筋膜張筋の間の陥凹部にとる。

そこから一筋隔てた後方大転子上際に環跳(胆経)がある。

髀は股の総称、故に股の外側を髀外、内側を髀内という。     

髀関は股の付け根である。

気衝から髀関は大腿神経痛の他、異常歩行(腰痛、膝痛の為)で痛くなる場合が多い。

圧痛をとって灸をすると効く。

{自己体験例}+++++++++++++++++++++++++++++

髀関に軽い痛みがあった。胃経なので他に反応がないかみると中カンに強い圧痛、地機に弱い
圧痛があった。置針すると髀関の痛みが取れた。痛いからといってすぐそこに刺針するのではなく
経絡の反応を見ることが大切である。局所だけの治療ではでは痛みはすぐ戻ってくる。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++


13.伏兎

膝上6寸、髀関と膝蓋骨外上角をむすぶ線の中央にとる。

大腿四頭筋筋間(大腿直筋と外側広筋)にとる。

大腿に力を入れると筋が隆起して筋間がよくわかる。

大腿四頭筋が隆起すると兎が伏せた格好に似ているのでこの名有り。

大腿神経痛、外側大腿皮神経を治す。

脚気八処の一つ。

坐骨神経痛にも用いる。と書いてあるが坐骨神経痛の場合下腿の胃経沿いに痛み

がある場合は多いが大腿の胃経沿いに痛みがある場合は少ない。

多くは膀胱経、胆経、胃経に沿っての痛みである。

これは坐骨神経が膝窩のやや上で脛骨神経と総腓骨神経に分かれるためである。

従って大腿の胃経沿い”だけ”に痛みがあるときは坐骨神経痛というより大腿神経痛又は
大腿外側皮神経痛であり、下腿にも痛みが及ぶ場合に初めて坐骨神経痛の疑いを持つべきである。

ただ腰神経叢(T12-L4)仙骨神経叢(L4-S3)陰部神経叢(S4-S5)はそれぞれ神経ワナを多く
作っているため、どの神経の障害か特定しにくい。

しかも複数箇所での障害も多いため、痛む箇所は患者によって千差万別である。

そこでおおまかに見当をつけて治療せざるを得ない。

************************************

脛骨神経:ふくらはぎを下行し、承山付近で脛骨神経と腓腹神経に分かれる。

     脛骨神経は内果を回り足底神経となり第1-5趾の足底に分布する。

     腓腹神経は外果を回り第4-5趾の甲側に分布する。

総腓骨神経:膝窩から腓骨小頭にかけて外側腓腹皮神経と浅・深腓骨神経に分かれる。

          外側腓腹皮神経は胆経沿いに外果まで下行して終わり。

     浅腓骨神経は胃経沿いを下行して第1-5趾の甲側に分布する。

     深腓骨神経は胃経と脛骨の間を下行して第1-2趾の甲側に分布する。

以上の神経走行より痛みの部位により障害されている神経が分かる。

@大腿前側:大腿神経(縫工筋、大腿四頭筋に分布)L1-L4

      外側:大腿外側皮神経 L2-L4

      後側:坐骨神経 L4-S3

A下腿前側:脛骨外縁:深腓骨神経        

            胃経沿い:浅腓骨神経              │下腿は全て坐骨神経の枝

   外側:胆経沿い:外側腓腹皮神経                    L2-S3

   後側:脛骨神経                         

************************************


14.陰市

膝蓋骨外上角の上3寸。筋肉間(大腿直筋と外側広筋)にとる。

陰の集まるところで、陽明経の陰の症状に効く。

下腹痛、膝の冷え、特に下腹部の冷えに効く。

「陰は陽に行き陽は陰に行く」ために陽経に陰(冷え)が集まるのであろうか?

陰市のそばに足の陽関(一般には犢鼻外方陥中、沢田流ではその上2寸筋肉陥中)

があり寒府といって冷え込みが集まるところである。(熱府は風門)

臍より下の寒邪を去るには陽関を用いる。

陰市と足の陽関には何か特別な関係があるかもしれない。

冷え性に使ってみよう!


15.梁丘

膝蓋骨外上角の上2寸。大腿直筋と外側広筋の間で溝をなしている。

胃経のゲキ穴。

全ての腹痛に効く。

特に胃痙攣には特効、即座に効くらしい。

下痢止めの名灸穴。(腹がゴロゴロいい、明け方下痢する鶏鳴下痢には崑崙の方が効く)

虫垂炎の疼痛には右側が効く。虫垂炎には蘭尾、足三里、梁丘、気海から圧痛の強い箇所を
選んで灸。熱が通りお腹の緊張が緩むまで施灸する。

下痢止めの名穴なので続けて灸すると便秘を起こしやすい。

もし便秘をしたら神門に灸するとよい。

膝痛には膝蓋骨中央の上2寸(膝上二寸ともいう、沢田流血海)に針をすると、
膝皿全体にひびき非常によく効くらしい。膝痛を治する針の妙穴。

李氏膝上穴(膝蓋骨上縁から3横指、大腿四頭筋の大きい腱を触れる。そのやや内側から
上に向け寸6を30°位斜めに刺し得気を得る。15-20分置針)も膝上部の痛みに効く。
トイレから立つのにひどいという場合などに効く。

{自己体験例}+++++++++++++++++++++++++++++

膝蓋骨直上も膝痛時圧痛があることがありこの時は灸が効く。

梁丘、膝上二寸、血海の針は痛みを伴いやすいので注意。

前揉法、針管をしっかり当てて刺針すること。

梁丘、血海ともに筋肉間の溝に沿って刺入すること。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++


16.犢鼻

外膝眼。犢(子牛)の鼻の形から。

奇穴の膝眼は内膝眼のこと。両方一緒に使う。

膝関節痛に針も灸もよい。深く刺して良いが関節部なので消毒注意。

重症になると深く刺さないと効かない。

ただし、骨や軟骨など硬いものにあたったら無理に刺入せず一度抜いて刺し直すこと。
膝を深く屈しないと穴が出てこないので注意。

無理に入れると逆に痛みが起こり歩行困難になる場合もある。しかもこの痛みは容易にとれない。
抵抗無くスーッと刺入できる所のみ深針可。

脚気八処の一つ。

オスグット・シュラッター病にも効くと書いてあるが、オスグット・シュラッター病の時は圧痛部位に灸した方が
効くと思われる。

************************************

オスグット・シュラッター病:10-15才の男子に多く認められる。脛骨粗面付近の疼痛を主訴とする疾患。
運動による牽引によるもの。治療は安静でキックやジャンプを禁止する。

大きな骨片があれば手術的に摘出も行われるが、殆どは保存療法。

特に有効な治療法はない。脛骨粗面の隆起はそのまま残る。

************************************


17.三里

脛骨の前縁を摩上して止まるところ(脛骨粗面)と、腓骨小頭直下の陽陵泉との中間。胃経の合穴。

膝を立ててとる。前脛骨筋中にあたり、深腓骨神経の枝が分布している。

諸種の慢性病および消化器疾患を主る。

胃炎、胃アトニー、胃下垂に効く。

神経衰弱、ヒステリー、神経症、半身不随、坐骨神経痛など神経疾患に効く。

また肥厚性鼻炎、蓄膿症などの鼻疾患にも効く。

全身の疲労、足の疲れにもイイ。灸して足がピクピク動くようならかなり効いている証拠である。

その他慢性病の一切に効く。

ただし、胃酸過多には用いない方がよい。(足三里に針灸すると胃の動きが活発になり、
胃酸も多く出る為)

別名鬼邪、鬼邪は十三鬼穴の一つで精神病に用いられる。

長寿の灸穴としても有名。

江戸時代三河の百姓万平さん一家が二百歳以上生きた話がある。

外台秘要に「人年三十以上、三里に灸せざれば気上がって眼を闇からしむ。
三里は気を下すゆえんなり」とある。

三里は胃熱を去る針の名穴。「肚腹は三里に収む」といわれる所以である。

なお小児に三里へ灸すると発育を止めるという説もあるが定かではない。

ただし小児には身柱の方が効くので大人の保健には三里、小児には身柱の灸がよい。


18.上巨虚

三里の下3寸、三里より一扶下にとる。

大腸の病を主る。腸炎、便秘、下痢に効く。

胃腸の熱をとるのに針して効果がある。

上巨虚を治療すると、大腸の病の反応がよく現れる大巨の圧痛がとれる。

大腸兪、上巨虚、大巨の三穴は密接な関係がある。


19.条口

上巨虚下2寸。膝中下8寸、膝中より外果まで1尺6寸だから膝と外果のちょうど中間。

沢田流では三里と上巨虚の間の後ろ5分のところにとる。

五十肩に効くのはここか?

承山に向けて透刺すれば肩関節周囲炎を治すとある。

しかし、実際効くのはこの穴より胆経よりであり豊隆のほうが近いと思われる。

目標とする筋肉は前脛骨筋ではなく長腓骨筋(長指伸筋ではちょっと前すぎ)であり、スジ状の
グリグリした筋に刺針し雀啄して強刺激を与えると肩関節の痛みが軽減する。

「産婦人科医のための東洋医学」(鈴木雅洲著)で今泉英明氏が中国北京婦産医院の針麻酔の
経穴として紹介している。

************************************

  帝王切開に対する針麻酔

針麻酔6000例以上の臨床経験の中でルーチン化させ、日常診療の中で用いている方法として
帝王切開、卵管結紮術に対する針麻酔の方法を紹介する。

@穴の部位:左右三陰交、左右条口、切開部の両傍側。

A方法:条口−従来は同じ経絡の外麻点を用いていたが、最近では外麻点に比べ

       更に効果の高い条口を用いている。外果上9寸(約30cm)

       脛骨外縁にある。2寸針を用い、1.5寸(約4cm)のところに針感を得る。

      三陰交−内果上4横指の脛骨後縁に位置する。このツボの針感は足底あるいは大腿部までいたる。
1−2cm直刺する。この刺針の効果は

       下腹部、大腿部を中心に痛覚閾値の上昇が認められる。

B刺激量:三陰交、条口:2Hz、導入時間15−30分。

************************************

以上のように帝王切開の針麻酔の経穴として条口が選ばれている。

これは痛覚閾値を上昇させて痛みを感じにくくするもので、五十肩の痛みが軽減するのも
同じ理由であろう。
しかも針麻酔では針感を得ることが条件となっている。五十肩の場合も刺針してひびかせないと
効かないので雀啄を行うが、針感を得ることは痛覚閾値を上昇させる条件の一つであると考えられる。

ちなみに腰痛で腰腿点に針をする時も、ひびかせないと効かないのは同じ理由であろう。

しかも針麻酔では1.5寸も刺入するという。1.5寸刺入するとなると、やはり胃経の条口でないと無理である。
胆経寄りに刺入すると1寸位で腓骨にぶつかってしまい、それ以上刺入できない。1.5寸刺入するので
あれば脛骨と腓骨の間を通さねばならないのでやはり胃経の条口になる。

条口で針感を得る(ひびかせる)ことができれば五十肩の痛みが和らぐのではないか?
ただし、痛みが和らぐのは一時的なので根本的な治療にはならないが、
「肩が上がる」「痛みが楽になる」
と患者さんに分からせるだけでも充分意味がある。

また、稀に軽症の場合、それで治ってしまうこともあるので、重要な技術である。

臨床にて更に研究が必要である。

{追加}++++++++++++++++++++++++++++++++

肩を通る経絡は太陰肺経(前面)、陽明大腸経(前面)、太陽小腸経(後面)、少陽三焦経(外側)である。

ゆえに前面の痛みには同じ太陰の脾経、陽明の胃経、後面には膀胱経、外側には胆経を使うのだと考える。
どうして痛みの出ている経を直接使わないのか?という疑問はあるが、痛みが出ているというのは経絡に
異常があるということなので、異常のある経絡よりは異常のない健全な経絡を使った方が治りが良い
ということなのではないだろうか?以上のような理由で前面の痛みには陰陵泉、地機、足三里、条口など、
後面の痛みには承筋、承山、外側の痛みには陽陵泉、陽交などを使い運動針を行う。

従って、以前五十肩に条口より胆経側の刺針が効くと思ったのは肩外側の痛みに

胆経の刺針が効いたためではないだろうか?五十肩に条口ではなく痛みの場所によって経を使い分ける
べきである。

西田流では条口−承山がオールマイティーに効くとある。

また、大椎上下の外側を指圧すると肩が挙がるようになる。(下道君に教えてもらった)
針も効果があるかもしれないので試してみよう。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++


20.下巨虚

上巨虚の下3寸。条口下1寸。

小腸の病を主る。

また脚気、半身不随、腓骨神経痛にも効く。

多くは坐骨神経痛の浅腓骨神経痛に針灸を行う。

深腓骨神経痛の時は、もっと脛骨寄りに痛みが出るので圧痛を取り治療する。

ただし坐骨神経痛の場合、両方痛む場合も少なくない。

深谷灸法では三里・上巨虚・下巨虚の3穴を「くも助灸」と呼んで下肢の疲労に

即効をもたらすと言う。

三里・上巨虚・下巨虚は一扶ずつとれば簡単にとれる。


21.豊隆

外果上8寸、膝中より外果まで1尺6寸だから膝と外果の中間点。

条口の外一筋を隔てたところ。針すると、中趾にひびく。

解剖学的には三里から下巨虚までは前脛骨筋中にとり、豊隆は前脛骨筋と長指伸筋の間にとる。

主治は脚気、背足痛に効く。

−−−以下は五十肩の条口刺針に対する一つの考え方である。−−−−−−−

肩関節周囲炎の条口は豊隆より更に1寸位後ろの筋(長腓骨筋)を刺針の目標とするのではないか?
ここに雀啄して肩の痛みが軽減する場合が多い。

ここは腓骨小頭の下方になるので胆経に属するが、該当する経穴はない。

ただ、豊隆、条口(外果上8寸)より1寸下(下巨虚、飛陽と同じ高さ)に胆経の陽交、外丘がある。

陽交は腓骨小頭下方、長腓骨筋と長指伸筋の間にあり深層は短腓骨筋にあたる。

外丘は陽交の一筋後ろで腓骨後際にとる。長指伸筋にあたるが、すぐ後方には

ひらめ筋がある。

陽交、外丘に五十肩の主治は無いが、陽交は陽維脈のゲキ穴、外丘は胆経のゲキ穴で
側脇部の疼痛を治す、とある。

また、肩の効果が陽交の深層にある短腓骨筋だとすれば、条口や豊隆からでも針

の方向を承山に向ければ目的は達せられる。

いずれにしてもこれから研究すべき課題である。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

以上、条口の所で「閾値上昇に条口が有効」であることは分かったが、胆経沿いの筋を目標にした場合も
効果があり、その原因を考えた一考察である。


22.解谿

足関節前面中央、前脛骨筋腱の外縁にとる。

足関節炎、捻挫に効く。

特に眼瞼下垂に効果があるという。

和漢三才図会に「これに灸してよく眼の腫痛を治す。上瞼は胃、下瞼は脾なるゆえ、もし脾胃に熱毒ある時は
すなわち瞼肉瘡(めはじこ)を生ず。」とあって

上瞼の病は胃に属する。(下瞼の病は脾に属する。)


23.陥谷

足の第2,3趾の中足骨接合部よりやや前の陥凹部。押すと圧痛有り。

第2趾の麻痺、足底痛に効く。

坐骨神経痛で第2,3趾付近がしびれるものにも用いる。

足底痛にはここより深く針を刺入して足底に達するように打つとよい、とあるが

足底痛の原因は足底腱膜炎であることが多い。

@ふくらはぎの筋の緊張により、踵骨が引っ張られ、踵骨から指にかけての足底筋が引っ張られるため
痛くなる。
この場合は足底全体もしくは土踏まず付近が痛む。

ふくらはぎの筋を緩め足底圧痛部に灸をする。

A急に走ったり、強いマッサージなどによる筋膜炎の痛み。歩けないほど痛いことも多い。

この場合、特に強い圧痛が3,4カ所あるはずなので、丹念に圧痛を取り灸をする。

痛みがとれるまで多壮灸を行う。痛みが絞れたら知熱灸をする。痛みが強い場合は直接の灸でないと
痛みが取れない。施灸後痛みが増すことがあるが、効いている証拠で、しばらくすると
(数時間から半日位)スーッと痛みはなくなる。

施灸後痛みが増した場合は患者によく説明した方がよい。

アイシングも併用した方がよい。


24.裏内庭

足第2趾頭に墨を付け折り曲げて墨の付くところ。

この穴に灸をして熱さを感じないときは食あたりである。熱くなるまで灸すると即座に治る。
必ず圧痛を確認すること。実に妙穴である。

{自己体験例}+++++++++++++++++++++++++++++

激しい腹痛、嘔吐で風邪か食あたりと考え裏内庭に直接灸、しかし熱くてがまんできず3壮で中止。
穴の取り方が違っていたのか、食あたりではなかったのか不明。

症状は改善しなかった。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++

これは失敗例である。圧痛を確かめなかったのと1壮で熱さを感じた場合食中毒

ではないので適応外であった。

胃経の主治は胃疾患であるが、上巨虚は大腸、下巨虚は小腸を治する。

胃疾患の急性症は梁丘で即治し、食あたりは裏内庭で即治する。

大腸と胃は陽明経で通じているので大腸疾患で水瀉性の下痢の時は梁丘の灸が

著効を現す。(鶏鳴下痢は崑崙)

腹部胃経の穴と足の胃経の穴もつながっており、例えば大巨に圧痛が強い場合

陰市、三里、上巨虚にも圧痛を現し、大巨を治すれば足の圧痛が軽減し、逆に

足の穴を治すると大巨の圧痛が軽減する。

なお、人の体を陰と陽に分けると、背部は陽、腹部は陰に分けられる。

他の11経は陰経は腹部(もしくは柔らかい内側の部分)を、陽経は背部
(もしくは刺激に強い外側の部分)を通るのに胃経だけは陽経なのに腹部を通る。

なぜか?


足の太陰脾経


1.隠白

足親指内側端爪甲去る1分。
 

急性胃炎、胆石疝痛、小児の夜驚症、精神が興奮し逆上したとき用いる。

別名鬼塁または鬼眼、十三鬼穴のひとつ、精神病に用いる。

井穴は全て救急療法に用いられるが、この穴も気付けに用いられる。


大都

第1中足骨頭前側陥中

関節炎、痛風の痛みに効く。痛風は圧痛をとり灸。


2.太白

第1中足骨頭後側の陥中。

痛風はこの関節が痛む。

痛風や関節リウマチで腫れているものに効く。

痛みの激しい痛風には腫脹部に多壮灸(直接灸)を行い、炎症を早く抑える。


3.公孫

太白と舟状骨粗面(突起部)をつなぐ線の中点にあたる陥中で内側楔状骨の

直下にあたる。

足底痛、母指麻痺、胃痛、食欲不振、消化不良、高血圧を治す。

和漢三才図会には「三十種の疾を治す」とある。

他にもいろいろ効く疾患があるはずである。

永沢先生は小児夜尿症に対して公孫と腎兪(これは不確か)に灸をしていた。

しかし小児に直接灸はかわいそうなので、7分灸か間接灸の方がよいと思う。


4.商丘

内果と舟状骨粗面との間の陥中にとる。

押すと圧痛あり足の内側にひびく。(←出典不明)

ちなみに肝経の中封は内果前1寸、足を屈曲させると浮き出てくる前脛骨筋腱
下際の陥中であり、ぎっくり腰の特効穴である。

また腎経の照海は内果の直下5分のところで、腎疾患を主る。

商丘の主治は足関節炎や捻挫。針は1寸位刺入しても差し支えない。


5.三陰交

内果上3寸、脛骨後際。4横指を3寸としてとるので手一束ともいう。

付近を探り最も圧痛のあるところをとる。

脾経、腎経、肝経の交会するところ。

月経不順、不妊症、子宮内膜症、冷え性、逆子などの産婦人科疾患を主る。

逆子の場合は至陰(膀胱経)の灸の方が効く。

ただし、妊娠初期は三陰交に針灸しない方がよい。

古来、妊婦には堕胎の恐れありとして針灸を禁じている。

合谷と三陰交の針で人工流産に成功した例もあるという。話の真偽は定かでないが、
妊娠4ヶ月目位までは針灸しない方がよい。

流産するのは、合谷も三陰交も気血を引き下げる働きがあるからではないか?

合谷は頭痛などの頭部充血を引き下げるのに効くし、三陰交は月経の滞りを下げるのに効く。

そのため、気血の最も旺盛な胎児が引き下げられて流産するのではないか?

だとすれば、妊娠後期には安産の穴として大いに針灸すべきである。

和漢三才図会には「二十二種の疾を治す」とある。

胆経の肩井も気血を引き下げる作用があるので妊娠初期には禁忌である。

逆に足三里、手三里は気血を調えるので下がった気血を戻すのによい。


6.地機

脛骨内側顆下際から内果までを1尺3寸として、脛骨内側顆下際下5寸。

脛骨後際にとる。伏在神経領域。

ひらめ筋の内側から長指屈筋が表面にでてきて、触るとスジっぽい筋肉がある。

そのスジと脛骨の境目で押すと圧痛がある。

脛骨後際の三陰交から陰陵泉までの間は、押せば多くの所で圧痛を感じる。

従ってだいたいの目安をつけて按圧していき最も圧痛の強いところを穴とする。

主治は大腿神経痛、下肢麻痺、膝関節痛などの他、脾経としての消化不良、急性胃炎、胃潰瘍、糖尿病に効く。

胃酸過多症にも著効がある。

脾経のゲキ穴。

三陰交・漏谷・地機・陰陵泉はそれぞれ一扶の間隔でとる。

三陰交・漏谷・地機の3穴で肝炎、胆石の特効穴

************************************

胃酸過多症

過酸症:胃酸分泌能の異常亢進のこと。胃酸分泌正常範囲を超えている状態。

必ずしも疾病とはいえないが、病的状態を呈していると過酸症に入る。

胃酸分泌過多はペプシン分泌過多をも伴っているので、食道、胃、十二指腸に消化性びらんや潰瘍を発生する。過酸の主な原因は壁細胞の増加または感受性の亢進

壁細胞への刺激(アセチルコリン、ガストリン、ヒスタミン)によって起こる。これらの異常刺激は

低血糖、ガストリン産生腫瘍(ゾーリンガー・エリソン症候群)、十二指腸潰瘍の繰り返し等によって起こる。

************************************


7.陰陵泉

脛骨の後縁を摩上して指の止まるところ。

脛骨内側顆の下際。

脾経の合穴。合は逆気して泄するを主る。

膝関節炎、リウマチに効く。

他の主治も調べよう!


8.血海

膝蓋骨内上角を上る2寸、筋肉陥中にとる。。

大腿直筋と内側広筋の筋間にとり、梁丘と同じように溝に沿って刺入する。

思ったより内側にあるので内側寄りにとること!

梁丘も思ったより外側にあるので注意!

膝を伸ばし、押して探ると大腿直筋腱と内側広筋の境がわかる。

沢田流では膝蓋骨中央上2寸(膝上二寸)を血海とする。

血海は血を主る。お血を下す。

膝関節炎に効く。

婦人科専用穴といわれるほど婦人科疾患に著効がある。

子宮内膜症、月経不順、月経痛、更年期障害に効く。

気海は気を主り、血海は血を主る。ゆえに血海は血を調えるのによい。

沢田氏は「股を60度の角度に開くと左右の血海と臍下1寸5分の気海とで正三角形のピラミッドができる。」という。

堀切流では眼瞼下垂の特効穴にあげている。血海付近の最大圧痛点に斜め上方に向けて
撚針を続けると1分位で瞼が上がってくるという。深谷灸法では胃経の解渓を妙効穴としてあげている。


9.腹結

臍外方4寸、下1寸3分にあり。

右は盲腸部、左は下行結腸部に相当する。

便秘の時、左腹結付近に硬い塊があることが多く、これは便の塊なので右回りにマッサージしてやるとよい。
同時に神門へ灸するとよい。

右は慢性盲腸炎、左は便秘に効く。便秘には針が効く。


10.大横

臍外方4寸(経穴概論は臍外方3寸5分)、乳の線よりやや内側(両乳間9寸5分より)にとる。

便秘、腹膜炎、月経困難症に効く。

脾経で最も多く用いるのは三陰交である。実に応用無限といってよい。

肝、脾、腎いずれの障害にも用い得る。腎臓病、胃腸病、男女生殖器病等に効果がある。

三陰交は月経の整調には欠かすことのできない穴である。月経の滞りを治する。

月経がこない場合、三陰交付近に強い圧痛があり、更に触ると冷たいことが多い。
つまり気血を下す脾経の流れが悪いと血行も悪くなり月経も降りてこない。

そのような時は三陰交付近の圧痛をとり(どこを押しても痛いことがありそのような場合は2,3カ所)
針灸を行い、皮内針を入れてやるとたいていすぐ月経がくる。

ただし妊娠4ヶ月目位までは針灸は避けた方がよい。堕胎の危険がある。

逆に妊娠後期には大いに針灸すべきである。難産の治療穴だからである。

脾経は関元、中極を絡うことを頭に入れておくこと。

関元、中極は血の海であり生殖器の病を主る。故に月経不順に脾経を用いるのである。

同じ理由で、脾経の病である膝関節炎、リウマチに中極、関元の針灸が効く。

月経不順なもの、婦人科疾患があるものはたいてい三陰交に圧痛がある。

脾と胃は表裏をなす。

したがって消化不良、食欲不振の場合脾経に反応をあらわすことが多い。

そうした場合、地機によく圧痛があらわれる。脾経の 穴だからであろう。

糖尿病も脾の疾患に含まれる。そして脾兪、胃兪、地機に反応がよく出る。

脾は肺の親なので、肺を治するときは脾も治する必要がある。

手の太陰の肺と、足の太陰の脾は太陰同士でもある。

************************************

脾の主な生理機能としては

@運化を主る。

1.水穀の運化

飲食物の消化、吸収を指す。実際に消化吸収するのは胃と小腸であるが、脾の運化作用によって
正常に行われるのである。

2.水液の運化

水液の吸収、輸送を指す。水穀の余った水分は脾の運化作用によって肺と腎へ送られ、肺と腎の
気化作用により汗、尿となり、体外へ排泄される。この作用が失調すると水液が体内に停滞し湿(湿気)、
痰飲(痰、水腫、膨満感)などの病理産物が生じる。

A昇清を主る。

清とは栄養物資のこと、すなわち栄養を全身に送ること。

B統血を主る。

血が経脈中を循行するよう統括し、脈外へ出るのを防ぐ。

脾の統血作用は実際には気の固摂作用によるもので、脾の機能が低下してくると気の固摂作用が低下し
出血するようになる。血便、血尿、性器出血などである。



手の少陰心経


1.少海

肘横紋内端陥中、肘を曲げ手のひらを頭に向けて取る。
 

反応の出ている時は強い圧痛がある。

耳鳴りの妙穴、眼充血を主る。

蓄膿症、肥厚性鼻炎にも著効がある。

その他心臓病、尺骨神経痛、項強に効く。

心経の合穴。

少海は耳鳴りに特に効果があるとされているが「腎は耳に開竅する」
のになぜ心経に耳鳴りのツボがあるのだろうか?同じ少陰だからか?

腎経では太谿が耳鳴り、中耳炎に効くとされている位である。

腎の機能に「腎は二陰と耳に開竅し、その艶は髪にある」とある。

二陰は泌尿器と生殖器であり、耳鳴り、難聴は腎虚によるとされている。

毛髪の生長、頭髪の脱毛も腎虚によるとされている。

腎陰が充足すると毛髪の生えがよく、艶がある。腎陰が不足すると
頭髪は脱毛し艶がない。ゆえに腎の艶は頭髪にあるという。

ただし、歳をとって脱毛してくるのは人の腎気が衰えることによるもので
病気ではない。
とすれば老人性の難聴、耳鳴りも仕方のないことなのだろうか?

病による気の減少は治療できるが、生理的な気の減少は治療して効果が
あるのだろうか?今まで老人性の難聴、耳鳴りが針灸治療で治ったという
経験はない。

はたして治療方法が悪いのか、それとも治療の限界なのか?


2.陰ゲキ 

手関節横紋尺側端より上がること5分。

肺経の経渠と対応する。

狭心症、心悸更新に効く。

心経のゲキ穴。

ゲキは筋間に神経が露出しているところが多く、強い刺激を与えるのに
適しているようである。古典に「ゲキは孔ゲキなり」「ゲキは隙なり」とあり、
隙間を意味する。


3.神門

手関節横紋内端、尺骨茎状突起と豆状骨の間に取る。

狭心症、神経症、精神病、ヒステリー、てんかんの名灸穴。

また便秘の特効穴。


4.少衝

小指爪甲の内角を去る1分。少沢と相対する。

気絶、人事不省、狭心症など急性症状の救急療法に用いる。

刺絡または小灸3-5壮。

和漢三才図会には「これに針して起死回生の妙あり」とある。

心は神を蔵すといい、神の字のつく穴は皆心臓の病変の反応を現す。

神道、神庭(督脈)神堂(膀胱経)神蔵、神封(腎経)神闕(任脈)等である。
心経は腎経と相関関係がある。ともに少陰経だからである。

また神門が便秘に効くのは小腸経と表裏関係にあるからである。

心経は心兪、神堂と関係がある。心兪、神堂の圧痛が少海、神門でとれるのは、
よく経験することである。

狭心症の疼痛が左背部の心兪、神堂より左手の心経に放散するのは
心臓と心経が親密な関係にある証拠である。

心の募穴は巨闕である。募穴は病が集まるところである。

個人的な意見だが少海から霊道までの間に穴が無いのは?である。

手の屈筋を使ったりすると尺側手根屈筋などがパンパンになるので

そこに灸などをするとよいと思うが、どうしてそこに穴が無いのだろうか?


手の太陽小腸経

1.少沢

小指爪甲外側去る1分。
 

人事不省の場合の気付けの妙穴。

狭心症、胸痛、激しい頭痛にも著効がある。

少沢に灸すると通天の痛みが消える。

三稜針、毫針で瀉血して咽喉痛が即治する事が多い。

個人的には扁桃炎の時、少沢・少商の瀉血をしたが
効果はなかった。

尺沢の多壮灸で治した。効かないこともあるということ
だろうか?

針の妙穴であるが、灸もよく効く。

鍼灸説約に「目翳(目のくもり、かすみ)を治す。
わずかに血を出す。手足五指頭の穴。殊に中風の
半身不随を治す。左は左、右は右を取る。一斉にこれを
取り単取せず。」とあり、半身不随の時は手足五本の指の穴
全てを治療せよと書いてある。指先は痛いので第一関節付近を
ゴムでしばるか指で締めて鬱血させてから

瀉血すると痛みも少なくうまく血がしぼれる。


2.前谷

手を握り小指外側の中手指節関節にできる二つの横紋のうち
末梢の方の横紋端。間歇熱を主る。(灸20壮)

小腸経の榮穴。「榮は身熱を主る」ので高熱の治穴となる。

**************************

間歇熱とは熱型の一つで弛張熱(38℃以上に及ぶ発熱が
日差1℃以上で上下するが最低体温が平熱まで下降することが
ほとんどないもの。
特に敗血症でしばしばみられる。)と異なり日差1℃以上で体温が
上昇するが、毎日正常体温またはそれ以下に下降するもの。
この熱型を示す典型例としてはマラリアがある。

一般に発熱時に悪寒を、解熱時に強い発汗を伴うことが多い。

三日熱マラリアでは発病初期を除いて、1日目有熱、2日目平熱、
3日目有熱、4日目平熱、5日目有熱・・と繰り返す。

**************************


3.後谿

手を握り、小指外側中手指節関節横紋の中枢側の端にとる。

流行性感冒(インフルエンザ)肺炎の場合に灸を20壮すえると著効がある。

和漢三才図会には「妙穴なり」と書かれている。

また、激烈な頭痛、腸出血、五指の痛みにも効く。

代田氏は効多く書いてあるが、深谷流はさらりと流している。

小腸経の兪穴。兪は「体重節痛を主る」と難経にあり感冒の節々の痛みに効く。
また、小腸経は太陽経なので傷寒(特に感冒の初期症状)に効くのであろう。

(太陽病については以下の六経弁証を参照)

強い頭痛にこの穴を使うのは、手の太陽経で足の太陽経を治すのである。

************************************
六経(りくけい)弁証(鍼灸診断学、黄志良著)

六経弁証は後漢時代に張仲景が「素問・熱論」中の六経の内容に根拠して、
漢代以前の外感熱病に対する治療経験を総括して「傷寒論」として編著し、
外感熱病の各種臨床表現を太陽病、陽明病、少陽病、太陰病、少陰病、
厥陰病の六類の病証に概括して病変の部位、性質、正邪の盛衰、病気の
趨勢および六類病証間の転変関係を説明している。

六経病の発生は、外邪が体内に侵襲した後、邪気の作用下で、正邪が邪気に
抵抗して相い争うと、経絡と臓腑の生理機能の失調が起こり、それによって
引き起こされる病理変化の結果発生する。

1.太陽病

太陽病は表証である。外邪の肌表侵襲によりまず太陽経が邪を受けて正邪が相争うと営衛が失調して発生する。

太陽病の病機は風寒が外を被い、衛陽が欝すると発熱、悪寒、頭痛、項強、浮脈の症状が発生する。

@太陽中風証(表虚証)

(症状)頭痛、発熱、発汗、浮緩脈

(方薬)桂枝湯

(針方)合谷、内関、風門、風池、足三里、曲池、三陰交

A太陽傷寒証(表実証)

(症状)悪寒、発熱、無汗、全身関節痛、腰痛、浮緊脈

(方薬)麻黄湯

(針方)合谷、復溜、風池、外関

2.陽明病

陽明病は正邪が相争う極期段階である。多くは太陽の邪が解けないで、熱邪が裏に向かって発展した
胃腸熱盛の裏熱実証である。

(症状)大熱、大汗、大渇、冷たいものを欲す、舌苔黄燥

(方薬)白虎湯

(針方)合谷、風池、太衝、太谿、三陰交

3.少陽病

少陽病は表証でも裏証でもない半表半裏の病変である。

太陽病が、気血の衰弱により邪気が内に入り、正気と相摶(そうはく:たたかう)すると少陽病になる。

(症状)寒熱往来、口苦、食欲減退、嘔吐、めまい

(方薬)小柴胡湯

(針方)肝兪、胆兪、太衝、陽陵泉、章門、期門、日月、中 

4.太陰病

太陰病は邪気が直接体に入ってしまったもの、あるいは三陽病の治療不徹底によって発生する。
太陰病は病勢が裏に向かい、脾陽不振による中焦虚寒の変化がある。ゆえに太陰病を裏虚寒証と称する。

(症状)満腹、嘔吐、温かいのを好む、押さえるのを好む、腹痛、食欲不振

(方薬)理中湯

(針方)脾兪、章門、中 、気海、大腸兪、足三里、腎兪、命門、太谿、天枢

5.少陰病

少陰病は陽虚裏寒を主とする心腎機能衰弱による病気に対する抵抗力が顕著に衰弱したものである。

少陰病は病人の体力によって寒化証と熱化証に分類される。

(症状)四肢冷たい、悪寒、下痢(消化されていない)、ねむい、小便多い

(方薬)四逆湯

(針方)腎兪、命門、太谿、脾兪、章門、太白、中 、気海、関元、大腸兪、天枢

6.厥陰病

厥陰病は六経伝変の中で最後の一経であり、生死存亡の緊急の時である。

正気が邪気に勝てば病状は好転し、正気が邪気に負けると病状は悪化し死亡に至る。

(症状)口渇、手足冷たい、お腹はすいているが食べたくない、下痢が止まらない、嘔吐、脈微弱

(方薬)烏梅丸

(針方)湧泉、神門、 門、関元、気海、命門、腎兪

************************************


4.腕骨

第五中手骨と有鈎骨、豆状骨の関節部に取る。中手骨を探っていくとわかる。

手関節から約1横指のところ。

小腸経の原穴。

尺骨神経痛、麻痺に効く。


5.陽谷

尺骨茎状突起の直下の陥中にとる。

やや手掌側には心経の神門があるので、やや手背側にとる。

陽谷と神門はほとんど同じ場所でありややこしいが、陽経と陰経の差をつけるため、やや手掌側、
やや手背側に取るのがよいと思う。

和漢三才図会には「神門は陽谷の正裏なり」とあり神門と陽谷は表裏関係にあるといっている。

陽谷は神門ほど主治は多くなく、手関節炎、尺骨神経痛に効く。

なお、神門も手関節炎、尺骨神経痛に効く。

小腸経の経穴。


6.養老

手掌を胸に当てると尺骨茎状突起の中央部に溝のような陥凹部ができる。

それが穴である。

手関節を回外、回内位にすると溝が無くなるので必ず中間位で取穴すること。

癰、疔(悪性のできもの・化膿性疾患)に特効がある。

手三里、合谷と併せて灸する。

小腸経のゲキ穴。


7.支正

養老より肘尖に向かって4寸(前腕を1尺2寸として)筋肉陥中にとる。

沢田流支正は肘尖より養老に向かって5寸にとる。

尺骨神経痛、麻痺に効く。深谷流では虫垂炎に多壮灸が特効とある。


8.小海

尺骨神経溝上にとる。小腸経の合穴。

尺骨神経痛、麻痺に効く。


9.肩貞

腋窩横紋頭の直上1寸。臑兪の直下。

五十肩に効く。上肢の挙上不能を治す。

乳汁不足にも効くとあるが天宗のほうが有名なので補助的に使うのか?


10.臑兪

腋窩横紋直上2寸。肩甲棘の下部の陥中であり、押すと上肢にひびく。

要は肩甲上腕関節のところにとる。

関節腔の中に針を入れるという感じでいいと思う。

五十肩を主る。

また、血圧亢進症、半身不随には必須の穴である。

項強を治し、後頭神経痛にも効く。

小腸経、陽維脈、陽キョウ脈が交会する。

臑は上腕のこと。

鍼灸説約には「肩抜けるがごとく、腕折るるに似たるを治す。臑兪、天宗、ヘイ風、曲垣、
肩外兪、肩中兪の六穴、もっぱら中風、半身不随、肩腕挙がらざる者を治す。
俗に寿命痛と称する者も又治す。」とある。寿命痛とはなんだろう?


11.天宗

肩甲棘下窩の中央。押せば圧痛があり上肢にひびく。

胸痛を主る。

乳房痛、心臓部の疼痛に著効あり。

五十肩、上肢挙上不能に効く。

また、右は肝障害、左は心障害に効く。

乳汁分泌不足を治する妙穴でもある(+ダン中)

臑兪、天宗、神堂、心兪、神道は同一直線上にあるので、取穴する際の目安になる。
(ただしこれは第7頸椎を第1椎とした代田氏の説による場合)


12.ヘイ風

肩甲棘中央上際より2横指上の陥中にとる。とあるが、経穴概論では「肩甲棘中央上際にとる」
となっている。上際の方が圧痛があり、2横指上では肩井とほぼ同じになってしまうため、上際に取る方がよいと思う。

肩凝りでここに強い圧痛がある場合針灸が効く。ただし針を硬結にしつこくあてると脳貧血を起こすので注意。


13.曲垣

肩甲棘起始部直上、棘上窩の内隅陥中。


14.肩外兪

肩甲骨内上隅の上方の陥中、陶道の外方3寸。

肩凝り、側頭痛に効く。


15.肩中兪

大椎外方2寸にとる。

肩凝り、項強に効く。


16.天窓

天容の直下で胸鎖乳突筋中央の前縁、喉頭隆起の高さにとる。


17.天容

翳風(三焦経:乳様突起と下顎枝の間)直下で下顎隅の後側陥中にとる。

咽頭炎、喉頭炎、扁桃腺炎に効く。


18.顴リョウ

頬骨下縁で外眼角の直下。

顔面神経麻痺、三叉神経痛、急性鼻炎に効く。

蓄膿症の場合は刺絡して瀉血すると著効がある。


19.聴宮

耳珠の前の陥中にとる。

耳鳴り、中耳炎、難聴、結膜炎に効く。

耳鳴り、難聴を訴えるのは圧倒的に老人が多く、聴宮に灸するのだが、目立った

回復をした例はみたことがない。

腎気の衰えによる耳鳴り、難聴は治療が難しいのではないか?
それとも技術が足りないから治らないのだろうか

この経には重要な穴が多い。

特に臑兪は、半身不随、五十肩、頑固な肩凝りには必須である。

そして効果も顕著である。

次に重要なのは天宗である。

胸痛(心臓部痛、乳房痛)には必須であり、上肢挙上不能にも著効がある。

養老は手三里、合谷とともに癰、疔の時灸する。

なぜ癰、疔に小腸経、大腸経の穴を使うのか?

難経はこれに答えて「六腑和せざる時は留結して癰となる」といっている。

慢性、急性関節リウマチに於ける小腸兪の刺針(1.5-2寸)は非常に効果があり、
殊に急性の場合には一針でもって全関節の疼痛を緩解するほどの効を奏することがある。

沢田氏は関節リウマチは小腸の熱であるから、その熱をとればすぐ治るという。

だが、大腸兪の刺針でもほとんど同様の効果が上がる。

さらにリウマチの時は小腸経と表裏関係にある心経の穴が必要なことが多い。

心兪、少海、神門、巨闕(心の募穴)等を用いる。

小腸の募穴は関元である。関元は小腸の熱をとるのに刺針して有効である。

(ということは、関元の刺針も関節リウマチに有効なのだろうか?)

婦人の月経障害が小腸経、心経に異常を来すこともよく見かけることであって、
その反応は小腸兪に現れ、ついで心兪に現れ、肩中兪、肩外兪天宗、臑兪と次々と小腸経の穴に
反応を現す。同時に心経にも反応を現すことがある。

またそれが関元、巨闕に反応を現すことも希ではない。

内経によると、心、小腸の色は赤である。そしてその色が現れるのは顔である。
顴 があまりに赤い者は、心か小腸に故障のある者が多い。

ことに健康そうに見えて頬が赤い者は小腸募の関元に 血を有する者が多い。



足の太陽膀胱経


1.晴明

内眼角内方1分、鼻根との陥中にとる。
 

涙管閉鎖、ドライアイなど眼病に針して効く。切皮程度でよい。

涙小管は上下に1本ずつあるので上下から斜刺し、置針する。

涙が出過ぎるのにも効く。

小腸経、膀胱経、胃経、陰 脈、陽 脈の五脈の会するところなので、
この五脈の反応が内眼角にあらわれる。望診の際注意せよ、とある。

どのようにあらわれるのか?調べよう!


2.攅竹

眉頭内端の陥中にとる。

三叉神経(眼神経、上顎神経、下顎神経)の眼神経の枝である
前頭神経(眼窩上孔、前頭切痕を通って表面に現れる)の
経路にあたる。

三叉神経痛(第1枝)、結膜炎、視力減退、眼精疲労、頭痛、高血圧に
針が効く。
刺絡して瀉血するとなお良い。

鍼灸説約に「細い三稜針でこれを刺すべし。熱を泄す。三度刺して
目大いに明るきなり」とある。

くしゃみが頻発するときここに針すると著効がある。

眼精疲労、仮性近視の時、前頭切痕から眼窩に刺入し、置針する。

針はなるべく細いものを使い、眼球に沿って静かに刺入する。
途中抵抗があったら無理に入れず、やり直す。

眼瞼は細い静脈があり、抜針する時傷をつけて内出血させやすい
のでゆっくり抜くこと。


3.通天

百会の斜め前、正中線外方1寸5分にとる。

頭の形は人により異なるため大体の見当をつけて圧痛をとる。

偏頭痛を治する妙穴(針灸ともに)

頭痛、項頸の強ばりを治するのに著効がある。

四神聡は百会の前後左右1寸だが通天に刺している場合も
多々あり?


4.玉枕

脳戸(外後頭隆起の上の陥中)外方1寸3分にとる。


5.天柱

亜門(外後頭隆起の下1寸5分、項窩中央)外方、僧帽筋の外縁、
圧すると痛みが頭に通るところ。風池の内上方。

頭を屈曲すると僧帽筋が浮き上がってくるので外縁がよく分かる。
僧帽筋と胸鎖乳突筋の間から小後頭神経が出てくるので、ちょうどその
通り道にあたる。

頭痛、肩凝りでは押すと激しく頭にひびく。

頭重、頭痛、不眠、神経衰弱、ヒステリー等脳疾患に著効がある。

蓄膿症、肥厚性鼻炎など鼻疾患、視力減退、弱視など眼疾患にも効く。

高血圧の時は針だけで、灸しないこと。

この天柱のほかに風府(外後頭隆起直下5分)外方1寸位の所に上天柱という穴がある。

風池の内方1寸上方2寸位の所で、押すとやはり圧痛がある。

更にその1寸位上で外後頭隆起の外方にゆるやかにカーブを描く隆起部がある。

その隆起部にも圧痛が出る場合がある。玉枕の下1寸3部位のところである。

故にこの辺の取穴は圧痛をとり最も反応がある所をとるべきであろう。

ここは環椎・軸椎部分で頭痛肩凝り時は硬くなっている場合が多いので針で

緩めてやるとよいと思う。

ただしどこを押しても痛い時、圧痛全てを治療してもかまわないと思う。

はじめ圧痛点に灸した後、再び圧痛をとると痛くなくなっている点が多く、本当に痛いところだけが残ってくる。
激しい頭痛などの場合はこのようにして穴を絞り込んでいくのもやむを得ないと思う。
当然、天柱、上天柱、風池、風府、完骨などを目標に圧痛をとっていくことは必要である。

代田氏は風府と上天柱の3穴を低血圧、半身不随、眼底出血、神経衰弱に常用している、と述べている。


5.大杼

陶道(第1,2胸椎間)外方1寸5分。(いっとうだいじょうだんけんがいゆのかまえ:陶道、大杼、肩外兪)

胸中の熱を瀉する。咽頭炎、喉頭炎、気管支炎の微熱を去るのによい。

項強、咳、喘息、高血圧にも効く。リウマチ熱に著効がある。

大杼は小腸経と膀胱経が交会するところなので、一身の陽気を調節する。

座位で深刺すると貧血を起こすことがあるので注意。

骨会穴。「腎は骨を主る。膀胱と腎は合す。故に骨会と為す」(経穴概論)とあるがやや強引である。

難経本義に「骨は髄の養う所、髄は脳より下って大杼に注ぐ。大杼より

脊中に滲入して尾底を貫き骨節に浸透する。ゆえに骨の気は皆ここに会す。」と

ある。


6.風門

2,3胸椎棘突間外方1寸5分。(にないふうふ:−、風門、附分))

風邪感冒の予防又は治療を主る。

微熱、気管支炎、喘息、肺炎など呼吸器疾患、頭痛、鼻疾患、扁桃炎、咽頭炎、肩凝り等応用範囲は広い。

風門は督脈と膀胱経の交会するところ。身柱より風門に入り陶道へもどる。

風門は風の出入り口だから入り口をふさぐのが予防で、出口を開けるのが治療である。

入り口をふさぐとは補法の針(弱刺激で抜針時、針孔を塞ぐ)、出口を開けるとは瀉法の針
(強刺激で抜針時、針孔を塞がない)を指すのであろうか?

それなら風邪を引きそうなときは補法の針もしくは灸、風邪を引いて熱がある時は瀉法の針が効く、ということか?

熱のあるときは灸はしない方がよいので、針を行う。よく熱を消退せしめる。

風邪の抜けぬものは多壮灸。20-30壮すえると早くなおる。(この灸は瀉法にあたるのであろう。)

甲乙経に風門熱府とある。熱府は熱の集まるところ。寒府は胆経足の陽関。

風門から膈兪あたりまで(T2-T7)は僧帽筋、大菱形筋が脊柱に付着する所なので

肩凝りでは強い圧痛がある。


7.肺兪

身柱(3,4胸椎間)外方1寸5分。(みてしんぱいなはくこ:身柱、肺兪、魄戸)

呼吸器疾患を主る。気管支炎、咳、喘息を治する。

素問刺禁論に「刺して肺にあたれば三日にして死す」とあり、深刺危険、気胸を起こす恐れあり、としている。

古来風門、肺兪は打肩(ウチカタ)とよばれ民間常用の灸穴である。

「打肩に灸してない人と旅をするな」ということわざもある。

これはどういう意味だろう?荷物を背負う旅ではここが凝るので灸をしたのか?

和漢三才図会に「よく一身の熱気を瀉す。常にここに灸して永く癰疽瘡疥の患無し。」とある。
肺は皮膚を司るということだろうか?

癰(よう:悪性のできもの。多く首の後部や背やおしりにできる)疽(そ:悪性のできもの)
瘡(そう:体毒によるできもの)疥(かい:皮膚病で非常にかゆい)

疔(ちょう:顔にできる悪性のはれもの)


8.厥陰兪

4,5胸椎棘突間の外方1寸5分。(しないけっこう:−、厥陰兪、膏肓)

肋間神経痛、心筋障害、狭心症、心悸亢進症に効く。

上歯痛、涙管閉塞症に効く妙穴。

聚英に「厥陰兪は即ち心包絡の兪なり」とある。

心包絡とは心膜のことであろうか?


9.心兪

神道(5,6胸椎棘突間)外方1寸5分。(いつもしんどうしんじんせよ:神道、心兪、神堂)

心臓疾患を主る。狭心症、高血圧、心悸亢進に効く。

神経症、精神病にも効く。

盗汗を治する妙穴。

心の募穴は巨闕。

甲乙経に禁灸穴とあるが灸をしても害はない。

むしろ大いに灸すべきである。

千金方に「食することあたわず胸中満、膈上逆気、悶熱を治す。心兪に灸す二七壮

小児これを減ず」とあり、千金翼方には「心煩短気、心兪に灸すること百壮」と

あり、心身症、ノイローゼ、ヒステリ-、神経症でイライラしたり、食欲がない、胸がつかえる等の症状の時、用いていたことが分かる。

************************************

精神病、神経症、心身症、ヒステリー、ノイローゼ、てんかんに効く穴は

◎百会、身柱(督脈)

◎天柱、◎肝兪、心兪、腎兪(膀胱経)

◎神門(心経)                                  ◎は特効穴

◎ダン中、中カン、巨闕(任脈)

◎内関(心包経)

************************************


10.膈兪

至陽(7,8胸椎間)外方1寸5分。(ないしょばなしかくかく:至陽、膈兪、膈関)

肩甲骨下縁がほぼ7,8棘突間なので目安にする。

ここは僧帽筋が付く所で凝りやすいところなのでたいていの人は圧痛がある。

膈兪と横隔膜の関係についてみると、横隔膜の位置は第5,6胸椎から第12胸椎まで

達しており(立位、臥位、呼吸によって上下するが)横隔膜頂点付近は膈兪付近になる。
ゆえに膈兪の膈は横隔膜と全く関係がないわけではない。

事実、膈関の項で「膈は横隔膜、肋膜を指す」とある。

胃酸過多、空腹時胃痛(胃潰瘍は空腹時に痛む)、むねやけ、胃下垂、神経衰弱、ヒステリーを治する。

肝臓疾患、胆石にも効く。

応用範囲が広く、特に胃酸過多には必須の穴。

沢田氏は「膈は上焦と中焦の境に位置し、天地の境であり上にも下にも効く。道書には病は肝膈の間に
起こり肝膈の間に帰す、とある。」という。

和漢三才図会に「血病皆これに灸するによろし」とあるがこの血病とは 血から

くる神経症やヒステリーを指すらしい。実際そうした病気によく効く。

聚英に「上は心兪、心は血を主る。下は肝兪、肝は血を蔵す。ゆえに膈兪は血会と為す。」とあり、
血液に関する病を主る所とされる。

八会穴の血会穴。

血会穴の説明として「中焦の分にあり。精微を化して血と為す、故に血会と為す」

(経穴概論)とあり、血の気が聚(あつ)まるところである。


11.肝兪

筋縮(9,10胸椎間)外方1寸5分。(くぎんのかんこん:筋縮、肝兪、魂門)

肝臓疾患を主る。肝炎、肝機能障害、胆石に効く。

不眠、神経衰弱、てんかん、めまいにも効く。

また、眼疾患の全てに効く。(眼は肝に属す)

肝の募穴は期門(肝経:第九肋軟骨先端、乳頭線やや内側)


12.胆兪

10,11胸椎間外方1寸5分。(どーなしたんよう:−、胆兪、陽綱)

胆嚢炎、胆石(特に右の胆兪に圧痛が現れる)、黄疸に効く。

胆の募穴は日月(胆経:期門下5分)


13.脾兪

脊中(11,12胸椎間)外方1寸5分。(いいせきをひゆするいしゃ:脊中、脾兪、意舎)

胃痛、胃炎、胃潰瘍、胃下垂、消化不良、食欲不振などの胃疾患を主る。

また健忘症、蓄膿症、嗜眠病、倦怠感、膵炎、糖尿病に効く。

胃癌には対症療法として用いることはできるが全治はむずかしい。

胆石、十二指腸潰瘍の時は右側に、胃潰瘍の時は左側に圧痛を現すことが多い。

糖尿病に関係するのは、五味の甘が脾に相当することでも理解できる。

ゆえに糖尿病では脾兪に圧痛が現れることが多い。

脾の募穴は章門(肝経:第11肋骨尖端、肘を脇に付け肘先が当たる所)

************************************

代田氏は「脾は現在の脾臓、胃、十二指腸、膵臓、胆嚢などの消化吸収の働きに名付けたものらしい」
と述べ特定の臓器でなく働きを示すもの、としている。

しかし脾については三焦、心包と同じく諸説があり、一定していないのである。

ただし脾臓の働きの一部は今の膵臓に相当する。

脾の生理作用には

@運化:水穀を消化吸収する。

A昇清:栄養を全身に輸送する。

B統血:出血しないよう防ぐ。

の三つがあり、このうち@運化には膵臓頭部から出される消化酵素が大きく関わっている。

ABには血管や胸管を含むリンパ管、そして脾臓が関わっている。

昔、腑分けの際なぜ膵臓が五臓から外されたのか疑問である。

文献からすると膵臓のことを脾臓といっていたわけではない。

鍼灸抜萃大成によると「脾の形馬蹄のごとく、また壺廬(ころ)のごとし。脊の

第十一の椎に付着し胃の上に重なり覆う。常によく運動し、胃中の水穀を消化することを為す。
四十二難にいわく、脾の重さ二斤三両、幅の広さ三寸、長さ五寸

散膏半斤あり。」とある。

長さ、重さを割り出すために鍼灸重宝記から引用すると大腸が長さ二丈一尺、重さ二斤十二両、
小腸が長さ三丈二尺、重さ二斤十四両、心臓の重さ十二両、肝臓の重さ四斤四両、
胆嚢の重さ三両三銖(しゅ)、腎臓の重さ一斤一両、膀胱の重さ九両二銖、幅九寸とある。

現代の解剖学では大腸の長さ1.6m、小腸7m、心臓の重さ260g、肝臓の重さ1200g、
膵臓の重さ74g、長さ15cm、幅3cm、腎臓の重さ105g(ふたつで210g)、
脾臓の重さは100g長さ10.5cm、幅6.5cmである。

小腸大腸は区別するところが違うと全く数値が異なるので除き、心臓の十二両が260gだから
1両=22g、ところが1斤の重さが分からない。昔の尺貫法では1斤=600gであったが、
これでは肝臓が2488g、腎臓が622g、脾臓が1266gとなりおかしい。斤をX、両をYとして
肝臓と腎臓で式をたてると
4X+4Y=1200,X+Y=210となり重量のばらつきを考慮すると

X=23,Y=230程度になると考えられる。(1斤=230g、1両=23g)これにあてはまると
肝臓1012g、腎臓253g、脾臓529gとなる。長さは1寸=3.03cmとすると、脾臓は幅9cm、
長さ15cmとなる。

以上の結果、形、長さ、幅からすると現在の脾臓を脾臓としていたと考えられる。
更に、場所からしても膵臓は完全に胃の下だが、脾臓は胃の裏にへばりついており、
胃に重なり覆うとはいえないまでも、胃には近い。

ただし、古典の脾臓は、重さが現代の脾臓の5倍もある。

1寸=3.03cmとしてもサイズ的には古典の脾臓は現代の脾臓の1.5倍位であり体積比(重量比)
でも1.5の3乗で3.4倍程度である。

もしかしたら古人の脾臓は現代人の脾臓より大きくて重かったのかもしれない。

現在の脾臓はリンパ組織の一部と考えられており、摘出しても特に問題はない。

しかし、昔は衛生状態が今よりも悪かったので病原菌、害虫、寄生虫と戦い、体を守るため
免疫組織の一つでもある脾臓が発達していたのかもしれない。

古典の脾臓についてはこれからも研究していく必要がある。

ちなみに小川鼎三著「医学の歴史」(中公新書)によれば「膵」という字は文化二年(1805)に出版された
宇田川玄真の「医学提綱」で初めて世に出たものであって、この臓器は五臓六腑に含まれず、
シナや日本では、西洋の医学が入るまでその存在が知られていなかった。

山脇東洋の高弟であった栗山孝庵が宝暦八年(1758)に行った解剖で、胃の下で腸の外に
積塊をみとめて「色は赤黄、大きさは拳のごとし、裏面外面点々灸瘡の如きもの孔十数あり、
腸膜に粘着し剥離易からず」と記しているのは膵臓を見たのではないかと思われる。

しかしそれが正常の構造とは気づかず、膿のかたまりと考えて、獄使に(女の刑死体を解剖したため)
「この女は何か病気ではなかったか」と質問した。獄使は「そんな様子はなかった」と答えたので
孝庵は不思議に思った。とある。

日本人が膵臓の存在を知ったのはドイツ人クルムスの著書をオランダ語に訳して1734年アムステルダムで
出版された「ターヘル・アナトミア」(これは日本の通称で、原題は「Ontleedkundige  Tafelen」)を杉田玄白と
前野良沢が手に入れてからである。二人は「解体新書」五冊を安永三年(1774)に出版した。

(ちなみに「神経」という語は玄白によって作られたもので「解体新書」で初めて公表された。)

解体新書では胃の下に「華人(シナ人)が未だ説かざるもの」として膵臓のことを
大幾里児(ダイキリイル)と名付けて図説している。

そしてこれが膵臓と名付けられるのは「解体新書」出版から31年後の1805年である。                                   

************************************


14.胃兪

12胸椎、第1腰椎間外方1寸5分。(とにかくいい:−、胃兪、胃倉)

主治は脾兪と殆ど同じ。胃痙攣、急性胃炎では脾兪より反応が強く現れることがある。
従ってこうした場合は胃に対する治効も脾兪にまさる。

胃へ直接効くのである。

胃の募穴は中 。


15.三焦兪

懸枢(1,2腰椎間)外方1寸5分。(いけんはさんこう:懸枢、三焦兪、肓門)

腎盂炎、腎炎、尿蛋白、糖尿病、消化不良、下痢、腸炎、胃痙攣、腰痛、胆石、月経不順に効く。

総じて慢性諸疾患に著効ある穴で、副腎の機能低下に著効がある。

三焦兪は上、中、下焦を治すので全部の内蔵に関係する。

三焦は副腎と関係があるようである。

三焦の募穴は石門。

************************************

副腎皮質機能低下症(アジソン病)

副腎皮質の90%以上が破壊されると発症する。原因は結核性と自己免疫性。病態は

コルチゾル、アルドステロン欠乏による倦怠感、脱力感、やせ、悪心嘔吐、下痢、食欲不振

めまい、低血圧、低血糖、神経症状、関節痛、女性の液毛恥毛の欠落など。

副腎皮質ホルモン投与で予後良好。

************************************


16.腎兪

命門(2,3腰椎間)外方1寸5分。(にんめいをじんししつ:命門、腎兪、志室)

簡単な取穴法として左右の腸骨稜上縁を結ぶ線(ヤコビー線)から3横指上の棘突間

外方1寸5分。

腎の募穴は京門(胆経:第12肋骨尖端下際)、ただし沢田氏は志室のところに京門をとる。

腎兪の応用範囲は極めて多い。沢田氏はほとんど全ての患者に用いる。

@腎臓疾患を主る。腎臓炎、蛋白尿、腎盂炎等に効く。

A膀胱疾患を主る。膀胱炎に効く。

B生殖器疾患を主る。梅毒、尿道炎、夢精、陰萎、子宮内膜炎、不妊症、月経不順等に効く。

C神経疾患に効く。神経衰弱、ヒステリー、精神病、高血圧、坐骨神経痛、腸骨下腹神経痛
(腰痛から下腹部が痛くなるのは腸骨下腹神経、腸骨鼠径神経の痛みで、腸骨下腹神経は
T12−L1,腸骨鼠径神経はL1から出ている。従って下腹部痛の治療には三焦兪、腎兪そして
下腹部圧痛点に針灸を行う。)等に効く。

D消化器疾患に効く。消化不良、食欲不振、下痢、嘔吐等に効く。

Eその他心臓病、眼底出血、中耳炎、喘息、遺尿、副腎機能障害、糖尿病など、
およそ病というもので腎兪が必要で無いものは無い位、全ての病に必須となっている。

これは鍼灸治療というものが、人の持つ自然治癒力を高めることによって病を治すということに基づいている。
元気の源である腎を補うことで治癒力を高めるのである。従って全ての治療に腎兪は欠かせない。

黄帝内経によれば、腎は先天の原気の宿るところであって精と志を蔵し、一身の

精力の発源地であるといわれている。また漢方によれば、腎の機能を旺盛にして

水毒を除くことにより全身の細胞を活発ならしめることができる。

さらに鍼灸治療基礎学には続けて「漢方の腎には副腎も含まれているとすれば、副腎の機能が旺盛になれば
全内蔵が刺激されて全体的に強壮になることができ、沢田先生が腎を最も重んじられたのはまことに卓見である。」
と書いてあるが三焦兪のところで、三焦は副腎と関係があり、副腎機能低下に著効がある、とも書いてある。

ということは副腎は三焦にも腎にも含まれるということであろうか?

ところで鍼灸治療基礎学によると、三焦は三谷公器氏の説では

@上焦が胸管を中心とする胸郭以上のリンパ管系

A中焦は膵臓を中心として上腹部のリンパ管系

B下焦は乳糜管と下腹部から脚部に至るリンパ管系

ということである。

この説に基づけば三焦が副腎と特に強い関係があるとは思われない。

三焦と腎と副腎の関係についてはこれから研究していく必要がある。


17.大腸兪

陽関(4,5腰椎間)外方1寸5分。(4本のヨーカン食べて大腸いたむ:陽関、大腸兪)

陽関はヤコビー線と脊柱の交わる点のやや下。(ヤコビー線は両腸骨稜を結ぶ線で、
成人では第4腰椎棘突起を通過するので脊椎麻酔の穿刺部位の目安になる)

大腸疾患を主る。便秘、下痢、痔に効く。

また腰痛、坐骨神経痛、椎間板ヘルニア、変形性腰椎症、関節リウマチ、月経痛、不妊症に効く。

下肢疾患の全てに効く。

皮膚病にも効く。(これは大腸経に合谷、手三里、肩グウという皮膚病に効く穴が多いことからも分かる。)

皮膚病に大腸兪を用いるのは「肺、大腸は皮膚を主る」からである。

大腸の募穴は天枢(胃経:臍外方2寸)

5腰椎、第1仙椎棘突外方1寸5分に関元兪(奇穴)がはいる。

腰痛ではよく圧痛がでるので、治療点として用いる。


18.小腸兪

1仙骨稜外方1寸5分。上後腸骨棘のすぐ上で第1後仙骨孔のやや外上方。

脊柱直立筋の腸肋筋、最長筋が腸骨稜から起こるので、脊柱直立筋の緊張による腰痛の場合は
小腸兪から上後腸骨棘内側にかけて圧痛が現れる。

痔、下痢、便秘、月経不順、子宮出血、坐骨神経痛など下肢の疾患および生殖器疾患に効く。
月経を調え、お血を排除するのにも効く。

急性および慢性の関節リウマチに著効あり。

代田氏は「小腸兪の鍼灸が関節リウマチに著効があることは驚くべきほどである。

これはリウマチが小腸の熱によるものであるという説に基づくものであり、急性のリウマチでは
小腸兪に必ず反応が現れる。しかし大腸兪でも殆ど同じ効果が得られる。
さらに、リウマチは小腸の熱なので表裏関係にある心経の治穴が必要なことが多い
(心兪、神門、心包経のゲキ門)。」と述べている。

小腸の募穴は関元。


19.膀胱兪

次 (第2仙骨孔)外方5分。

膀胱炎、腰痛、坐骨神経痛に効く。

仙腸関節上にあたる。

腰痛では仙腸関節に痛みがひびき、圧痛があることが多く、この時は圧痛を取って仙腸関節沿いに針灸を行う。

膀胱の募穴は中極。

腰痛で下腹部に痛みがひびく時、中極の灸が効くことがある。


20.上リョウ

上後腸骨棘の上1寸、第1正中仙骨稜の突起外方1寸。

第1後仙骨孔にあたる。

ここへ80度の角度で針尖を下方へ向けて刺入すると第1後仙骨孔に入る。

骨盤内にはいるまで約5センチ必要である。

坐骨神経痛、腰痛、膀胱炎、子宮内膜炎、月経不順、男女生殖器疾患に効く。


21.次リョウ

上後腸骨棘内下方4-5分のところをさぐり、グリグリしたものをふれるところ。

上リョウの下5分位のところ。

坐骨神経痛の人はここを圧すると下肢に痛みが放散する。

針をすると1-1.5寸で坐骨神経に沿ってひびく。

坐骨神経痛、麻痺には特効あり、必須の穴。

また、膀胱炎、尿道炎、婦人科疾患には必須。

八リョウ(上リョウ・次リョウ・中リョウ・下リョウ)のうち最も大事な穴であり、沢田流では常用の穴である。

針は1寸から1寸5分を刺入する必要がある。

2寸以上刺入すると、針は後仙骨孔を通って前仙骨孔へ出て、仙骨神経の前枝に当たり期待通りの
効果をあげることができる。(必ずしも仙骨孔を貫通しなくても効果はある。)

個人的に次リョウに深針してひびかせたことはないが、強刺激によってかえって症状が悪化することが
ないかどうか不安ではある。


22.中リョウ

第3正中仙骨稜の突起下の外方7分位のところ。

第3後仙骨孔にあたる。次リョウの下約5分のところ。

次リョウの補助として用いる。

だが、痔、膀胱炎、直腸炎ではこの穴の方が効く。

7,8分から1寸の針刺で肛門付近にひびく。

痔の痛みを止めるのにこの穴の針がよく効く。

前立腺肥大、尿道炎にも用いられる。

腰痛の場合、仙骨に痛みがひびく場合が多い。また、ひびかなくても押すと強い圧痛を示すことがある。

この場合、上後腸骨棘から仙腸関節に沿っての圧痛が多く、さらにその内側の八リョウ穴(上、次、中、下 )
にも圧痛が出ることがある。

仙腸関節に圧痛が出るということはそこに負担がかかっているということであり

痛みのために正常な歩行、正常な姿勢ができないため上半身の体重のかかる仙骨と、下肢からの力を受ける
寛骨との境目の仙腸関節に負担がかかるのであろう。


下リョウ

第4正中仙骨稜突起下両傍6分位の所にあり、第4後仙骨孔にあたる。

ただし正中仙骨稜は人により癒着して突起間を触診できないときがある。この時は下(仙骨裂孔)から
探っていった方がよい。仙骨裂孔のすぐ上の突起が第4正中仙骨稜なのでその両傍のやや下に第4後仙骨孔はある。

そしてその上の突起(第3正中仙骨稜)両傍のやや下に中リョウがある。

このようにして八リョウ取穴したほうが確実である。

主治は痔、脱肛、尿道炎、膀胱炎、陰萎、遺精に効く。

甲乙経には刺針の深さを上、次リョウは3分、中、下リョウでは2寸としている。

医学入門では八リョウ皆2寸となっている。


23.承扶

臀部横紋中央。

深部に坐骨神経幹が通る。

坐骨神経痛に効有り。

坐骨神経痛の場合、臀部中央で5寸針を直接坐骨神経に当てると電撃性のひびきがあり、
痛みが軽減する場合もあるが、まれに後まで痛みが残る場合がある。

一般に痛みが再現される刺激が効果的とされるが、電撃性のひびきを一度経験するとそれを恐れ、
長い針を嫌がる患者もいる。

従って、3−5寸刺入して電撃性のひびきをおこさせる方法と、2寸位の針をほとんど刺入して
重苦しい感じを再現させる程度にとどめておく方法とあり、これは治療方針が分かれるところであろう。

慢性化した坐骨神経痛では強くひびかせるようにして、急性もしくは激痛を伴うものではソフトにひびかせるようにする、
といったように病状によって変えることも必要であろう。


24.殷門

承扶下6寸、委中上8寸。大腿二頭筋長頭と半腱様筋の間にある。

経穴概論には「承扶と委中の中間にとる」とある。

大腿後側の筋は大腿二頭筋腱が膝の外側、半腱様筋と半膜様筋腱が膝の内側に付くので、
両方の腱の中間をたどっていくと筋間がわかる。

深部に坐骨神経が通っており、坐骨神経痛に特効がある。

「坐骨神経痛の多くは次リョウの針灸で疼痛が緩解するが激症になると殷門穴が必要で、
この穴なしでは完全に治癒しない。」と代田氏は述べている。

なお、殷門の外方で膀胱経と胆経の間に病気の反応をあらわすところがあり、

背部第三行の経路に続くものとして用いる。実際治療に必要な穴である。

代田氏は外殷門と名付けている。


25.委陽

膝窩横紋外端の陥中、大腿二頭筋腱の内縁にとる。

腓骨神経痛、膝関節痛に効く。

なお、委陽のやや下には腓骨頭があって大腿二頭筋、ひらめ筋、長腓骨筋(足を外反させる筋)の腱が付く。
長く正座して立ち上がる時、この腓骨頭付近が痛み、膝が伸ばせないことがある。スポーツ選手などにも多い
この痛みは放っておいてもなかなか治らない。このような時圧痛をとって灸すると良くなる。
圧痛が絞れたら知熱灸をすると効果的である。


26.委中

膝窩横紋中央脈動部にとる。

深部に膝窩動静脈、脛骨神経(坐骨神経は膝窩のやや上で膝窩中央を走る腓骨神経と、
腓骨の方を走る総腓骨神経に分かれる。)が通っている。

脛骨神経はふくらはぎを通り、途中で内果の後ろに行く脛骨神経と外果の後ろへ行く腓腹神経に分かれる。

総腓骨神経は膝窩外側で外側腓腹皮神経と浅腓骨神経に分かれ、外側腓腹皮神経は胆経沿いを通って
外果付近まで走る。浅腓骨神経は胃経に沿って走り足背皮神経となって足の甲から指に行く。
浅腓骨神経の枝である深腓骨神経は脛骨と胃経の間を通り、1,2趾に分布する。

従って委中は坐骨神経痛でも、脛骨神経沿い(膀胱経沿い)に痛みがあるものに対してより有効であると思われる。

坐骨神経痛、腰痛、膝関節炎、頭痛、衂血に効く。

膝を屈すると、すれて化膿しやすいので直接灸はなるべく避け、針を用いる。

素問に「解脈を刺すはゲキ中(委中)にあり、結絡黍米(きびごめ)の如く、これを刺せば血射て以て黒し、
赤血を見て而して止む。」とあり、古代瀉血法が行われていたことがわかる。

鍼灸説約にも「瀉血法を委中の結絡に行ってよく腰腿の痼疾を去る。」とある。

委中に結絡(血絡:静脈が浮き出るほど鬱血しているもの)がある場合、瀉血により症状が緩解することがある。

ただしむやみに瀉血してもダメ、叩いたりしごいたりして委中付近の静脈血を集めることが必要。
集めたら一気に瀉血すること。

頑固な腰痛、激痛、慢性腰痛などでは委中の結絡をよく観察することが必要である。

四総穴のひとつ。「腰背は委中に求む」


27.附分

2,3胸椎間外方3寸。風門外方1寸5分。(にないふーふ:−、風門、附分)

肩甲骨上角にあたる。浅層には僧帽筋、深部では肩甲挙筋の付くところ。

肩凝りでは圧痛がでやすいところで、肩甲骨を開いてとる。

肩背痛、項強、首が回らない等に効く。

附分で小腸経と膀胱経は交会する。

この穴以下胞肓に至るまで背部第三行という。


28.魄戸

身柱(3,4胸椎間)外方3寸、肺兪外方1寸5分。(みてしんぱいなはくこ)

肩甲骨内縁、肩甲骨を開いてとる。

肺結核、喘息など呼吸器疾患に効く。肩背痛にも効く。

魄は肺に蔵する精気、ゆえに魄戸は肺の出入り口である。

素問に「五臓兪の傍の五穴、左右十穴は五臓の熱を瀉するなり、この五穴は魄戸(肺)神堂(心)
魂門(肝)意舎(脾)志室(腎)」とある。


29.膏肓

4,5胸椎間外方3寸、闕陰兪外方1寸5分。(しないけっこう)

肩甲骨の中に隠れている穴なので患者に膝を抱えてもらって肩甲骨を開いてその内縁中央付近の
最も圧してひびくところにとる。

つまり平常肩甲骨の下になっているところの肋間に穴をとる。

押すとかなり痛い。

腕の使い過ぎや、ギックリ背中などで背中が苦しい、体をねじると痛い等の症状の時は、
たいてい膏肓から神堂、イキ、膈関付近(肩甲骨の内縁中央から下縁にかけて)に圧痛がある。

この時は圧痛に灸すると良い。間接灸で圧痛を絞りこんで知熱灸をする。

五十肩、頑固な肩凝り、背筋痛、上腕神経痛に用いる。

膏は心下の微脂、盲は膈上の薄膜、針薬の及ばざる所とあって、膏肓は胸郭中を指しているようである。
つまり肺、心、肋膜の病気を総称して膏肓の病と言ったようである。

ちなみに古人の「病膏肓に入る」とは不治の難病を指している。

諸書口を極めて膏肓の治効を述べており、医学入門には「陽気欠弱、諸虚痼冷、

夢精、上気扼逆、狂惑、忘誤、百病を主る。灸百壮より千壮に至る。」とある。


30.神堂

神道(5,6胸椎間)外方3寸、心兪外方1寸5分。(いつもしんどうしんじんせよ)

心臓病を主る。その他は膏肓と同じ。

神は心に蔵する精気。故に神堂は心臓の宮殿である。

心の熱を瀉する穴。(五臓兪傍穴のひとつ)


31.イキ  

霊台(6,7胸椎間)外方3寸。(むれーき)

イはオクビ(げっぷ)。キは痛んで呼ぶ声。

「これを押してイキと呼ばしむればそれ穴なり。(押して痛い!と叫べばそこが イキである)」

ギックリ背中でも圧痛が出やすい場所である。

角膜実質炎、肋膜炎、肋間神経痛に効く。


32.膈関

至陽(7,8胸椎間)外方3寸。膈兪外方1寸5分。(ないしょばなしかくかく)

両肩甲骨下端を結ぶ線が第7胸椎なので目安にする。

肋膜炎、胃下垂、肝疾患に効く。

膈関は膈(横隔膜、肋膜)に入る関門。

膈は横隔膜、肋膜を指すのであるが、古人は胃癌や食道狭窄のことを「膈の病」といっていたらしい。


33.魂門

筋縮(9,10胸椎間)外方3寸。肝兪外方1寸5分。(くぎんのかんこん)

肝疾患、肋間神経痛に効く。

魂は肝に蔵する精気。ゆえに魂門は肝臓の門である。門は出入り口である。

即ち肝臓の病の現れるところであり、治療点でもある。


34.陽綱

10,11胸椎間外方3寸。胆兪外方1寸5分。(どーなしたんよう)

胆石、胃痙攣に効く。


35.意舎

脊中(11,12胸椎間)外方1寸5分。脾兪外方1寸5分。

(いいせきをひゆするいしゃ)

ここを強く圧すると腹中にひびき痛む。

胃痙攣に著効。針しても灸しても良い。実によく効く。

急性症だけでなく慢性症をよく根治せしめる。

胃腸炎、胃潰瘍、黄疸、胆石にも効く。

意は脾に蔵する精気。舎は宿るという意味。脾胃の疾患を主る。

よく胃が悪くて背中まで痛むという場合、陽綱、意舎、胃倉付近に圧痛があることが多く、そこを治療するとよい。


36.胃倉

12胸椎1腰椎間外方3寸。胃兪の外方1寸5分。(とにかくいい)

意舎と主治は同じ。胃痙攣、胆石疝痛を治すには著効有り。

倉は収めるところ。


37.肓門

懸枢(1,2腰椎間)外方3寸。三焦兪外方1寸5分。(いけんはさんこう)

胃痙攣、胃炎、十二指腸潰瘍、腹痛など胃腸疾患に効く。

圧すると腹中にひびく痛みがある。

固有背筋(最長筋、腸肋筋)の外縁にあたり、内側に向かって押すと圧痛がある。

筋性腰痛の場合でこの第三行以下(肓門、志室をつなぐ線上)に強い圧痛を示すことがある。
固有背筋は胸腰筋膜という強い筋膜で覆われており、さらに固有背筋の表層にある広背筋の付着部分
(膀胱経第三行のライン)にも腰背腱膜という強い膜が張っている。

ゆえにこれらの膜に炎症が起きれば筋膜特有の強い痛みが発生する。(筋膜には知覚神経が分布しているため
わずかな炎症、裂傷でも強い痛みを感じる。従って筋膜性の腰痛では全く動けないほど痛みが強い場合もある。)

もし筋膜に炎症が起こっているのであれば、その筋膜に達するように刺針、刺激し、炎症を抑えるような治療をすべきである。

筋の炎症なのか、筋膜の炎症なのか正確に判断することが必要である。(もちろん両者のこともある)

筋、筋膜の炎症の場合、針で痛みが再現されるような刺激が著効を示すことが多いので、雀啄、回旋を行い炎症部位を探るとよい。

痞根(1,2腰椎間外方3寸5分)と大体一致する。痞はものがつかえるの意。

肓は臓腑骨肉のすきまで陽気の流れるところ。

そして肓門は三焦兪の外側にあって、三焦の元気が出る門のことである。

門がよく開かなければ元気もうまく流れない。ゆえにものがつかえる根本という意味で痞根という。


38.志室

命門(2,3腰椎間)外方3寸。腎兪外方1寸5分。(にんめいをじんしつつ)

沢田流ではこの志室を胆経の京門(腎の募穴)として、志室は3,4腰椎間外方3寸にとる。

永沢先生が志室を腎兪の並びにとらず、1椎下方の外方にとっていたのはこの説に従ったものであろう。

この穴も肓門同様、固有背筋の外縁にあたるため圧痛が出ることが多い。

筋、筋膜性腰痛では必須の穴である。

捻針して筋、筋膜に刺激を与えるのも良い。

内科的には尿道炎、子宮内膜症、冷え、男女生殖器疾患によく効く。

志は腎に蔵する精気。


39.胞肓

2正中仙骨稜外方3寸。次リョウ(第2仙骨孔)と並ぶ。腸骨の上にあたる。

圧すると下肢の後外側にひびく圧痛がある。

腰痛で、痛みが仙骨にひびく時、胞肓および仙腸関節にかけて圧痛があることが多い。この場合捻針してひびかせると良い。

腰痛、坐骨神経痛に効く。

腰痛の中にはこの穴を使わないと治らないものがある。

肓は臓腑骨肉のすきまで陽気が流れるところ。

胞は子宮もしくは陰嚢をあらわす。


40.承筋

腓腹筋の中央陥中(膝から外果まで1尺6寸)

腓腹筋の最もふくらんだところにとる。脛骨神経の経路。

こむらがえりを治する。坐骨神経痛にも用いられる。


41.承山

腓腹筋の下際の分肉間。アキレス腱を摩上し指の止まるところ。

坐骨神経痛、こむらがえり、踵骨痛に効く。脛骨神経に強くひびくことがある。

五十肩にも運動針として用いる。


42.飛陽

外果上7寸、腓骨の後縁陥中にあり。(膝から外果まで1尺6寸なので中間よりやや下)腓腹神経の経路にあたる。

胆経の外丘(ゲキ穴)陽交と同じ高さで並ぶ。

飛陽は押してもあまり圧痛が無いが、飛陽のやや上方内側、腓腹筋外側頭の腱に移行するあたりに強い圧痛を示すところがある。

飛陽をとるときは腓骨後縁よりやや後側にとるとよい。

腓骨上に陽交、腓骨後縁に外丘があるからである。

坐骨神経痛、腓腹神経痛に効く。

ただ、坐骨神経痛で腓骨後縁のラインに痛みを訴える例は少ない。

坐骨神経痛といっても痛みを感じるライン(胃経沿い、胆経沿いなど)は様々なので痛むラインに沿って穴をとるべきであろう。

胆経沿い:外側腓腹皮神経

胃経沿いから足の甲全体:浅腓骨神経

脛骨と胃経の間から足1,2趾:深腓骨神経

膀胱経沿いから足底:脛骨神経


43.ふ陽

外果上3寸、腓骨後縁陥中にあり。絶骨(懸鐘:外果上3寸腓骨前縁)と並ぶ。外側腓腹皮神経、腓腹神経の経路にあたる。
(腓腹神経は脛骨神経の枝で、承山付近で分かれ、外果を回り4,5趾に分布、脛骨神経は内果を回り足底に分布)

坐骨神経痛を治すのに特効ある穴である。

足の陽分に効く穴である。また、膀胱経に沿っての大腿後側の疼痛にもよく効く。

陽キョウ脈のゲキ穴。

陽キョウ脈は足部において膀胱経とほぼ一致するので膀胱経の急性疾患に効くのである。


44.崑崙

外果の後下部5分。指で按ずると糸状のグリグリを触れ、痛むところ。

腓腹神経が通る。腓骨動脈の外果枝が通るので拍動がわずかに感じられる。

坐骨神経痛、アキレス腱炎、鶏鳴下痢に著効有り。

ただアキレス腱炎の場合は崑崙の下の踵骨上縁に圧痛が多く出るのでそこに灸をすると良い。沢田流の僕参
(一般の僕参は踵骨外側陥凹部)である。

膀胱経の経穴。

崑崙と中極には密接な関係があり中極に針灸して崑崙の痛みが取れ、崑崙に針灸して中極の痛みが取れる。
中極は膀胱経の募穴だからであろう。


45.申脈

外果直下5分陥中にある。

足関節炎、捻挫に効く。

ただし、関節炎、捻挫の場合は経穴よりも圧痛を目標に灸をした方がよい。

陽キョウ脈の生じるところ。後渓と一緒に用いる。

陰キョウ脈は腎経の照海より生じる。


46.金門

外果下1寸、申脈の前下方、踵立方関節の外側陥凹部にとる。

申脈と京骨(第五中足骨底の隆起部後際)の中間を目安に圧痛のある所をとる。

坐骨神経痛に効く。

膀胱経のゲキ穴。

鍼灸説約に「霍乱(かくらん:夏の頃の腹下し)転筋(こむらがえり)てんかん

尸厥(しけつ:のぼせ)小児の発癇して口を張り頭を揺るがし身反折するを治す」

とある。救急療法として用いたようである。

しかし膀胱経のゲキ穴としては劇的な治効がなく、物足りなさを感じる。


47.至陰

足小指外側爪甲去る1分。

至陰というのはここから少陰経に行くからである。

難産に著効有り。逆子(右の方がよく効く、陰は右だからか?)

和漢三才図会に「婦人横産、諸の符薬効あらざるを治す。右の小指尖に三壮灸してたちどころに平産す。」とある。

産婦人科シリーズ「産婦人科医のための東洋医学」鈴木雅洲著(南江堂)で
間中喜雄氏は胎児の位置異常について「至陰に毎日1回艾条で15-20分温熱刺激を与える。
報告によれば80%以上の成功率がある。経産婦の方がよく、7ヶ月目から始めたものが最もよい。」
と述べている。

膀胱経の病である坐骨神経痛は膀胱兪より次リョウ、上リョウの方が効く。

特に次リョウは大切である。

次リョウについては「産婦人科医のための東洋医学」で今泉英明氏が減痛分娩の経穴として
「次リョウは上後腸骨稜の内側下方約1横指のところに凹部が認められる。この部分が第2仙骨神経の出る穴である。
このツボを刺激すると腰が抜けるような重苦しさが得られる。深さは0.2-2寸(0.6-6cm)である。
このツボは主に仙骨神経の領域に鎮痛効果を示し、優れた効果の得られた場合は仙骨神経ブロック
(trans sacral block)を行ったのごとき効果を有する」と述べている

坐骨神経痛の穴としては下腿ではフ陽が最も大切。それから崑崙、京骨、通谷を用いないと治らない重症のものもある。

通天(百会の斜め前1寸5分)の針灸で後頭部の圧痛が即座に緩解することは

まことに神効。特に偏頭痛に効く。長年の頭痛が根治した例も多い。

灸は米粒大5壮すえるだけでよい。2−3週続ければ軽快するものが多い。

なお膀胱経と小腸経はともに太陽経であるから密接な関係があり、小腸経の少沢または後谿の灸で
頭部膀胱経の頭重、頭痛が即座に消えることがある。

膀胱経は膀胱募(中極)と深い関係にある。膀胱経の病である坐骨神経痛の激痛が中極を用いることによって
直ちに緩解することが少なくない。

また膀胱経の頭重が中極の灸で治ることも多い。

さらに中極は早起きの名灸穴でもある。

崑崙は鶏鳴下痢に著効があるが、普通の下痢にもよく効く。

古人の意味する膀胱とは必ずしも現代の解剖学的膀胱のみを指していたのではない。
骨盤内臓器をひっくるめて膀胱といっていたらしい。

膀胱経で気になるのは臀部に穴がないことである。坐骨神経痛では坐骨神経が骨盤内から出てくる
梨状筋下孔(坐骨結節上方)付近、中殿筋(特に大転子上方付近)、大殿筋(特に臀部中央付近)に強い圧痛が出る。
また、臀部中央の坐骨神経を目標に深針(4−5寸)し、ひびきを得ると痛みが軽減することが多い。

なのに臀部に穴がないのはどうしてだろうか?

奇穴にあるかもしれないので探してみよう!

奇穴にあった!


1.環中

環跳と腰兪の中間にある。臀部中央。

主治は臀部痛、坐骨神経痛


2.新建

大転子と腸骨翼(腸骨で一番高いところ)を結ぶ線の中点。

中殿筋の筋腹にあたる。

主治は臀部痛

************************************

なお重要な記述があるので、婦人科における鍼灸治療について前述「産婦人科医のための東洋医学」の
物理学的治療(山下九三夫、竹之内診佐夫)から抜粋する**産婦人科における針灸の具体的方法(p.138)
***********
1)頭痛

産婦人科領域では月経や更年期障害の随伴現象として頭痛を伴うことが多い。

頷厭や懸顱は側頭部の痛みによく用いられ、これらから頬骨の後ろまで縦に刺針すると目の痛みにもよい。

上天柱や上風池、風府は種々の頭痛に対しての基本的常用穴であり、後頭隆起に沿って刺針、
強刺激で劇的に奏功する特効穴でもある。

頑固な後頭部痛に用い、風邪の治療にも用いる。

風池や天柱は後頭部、項背部の痛みや目の奥の痛みに用いる。

天柱では鼻先の方向に頭蓋下に刺入する。

曲池、後谿、内関、列欠はそれぞれの経絡の本治法(全身治療)の穴として用いる常用穴である。

百会は頭痛の他、痔の痛みや脱肛に用いる灸穴としても有名で、七壮ぐらいすえ、軽快しなければ上星に七壮すえる。

頭にすえる灸は熱さを感じる程度でよい。

足三里は頭がのぼせて痛いときに血管を収縮するために用いると言われている。足の臨泣も側頭部の頭痛に補助的に用いる。

2)めまい

産婦人科領域では低血圧、貧血、更年期障害、自律神経失調の症状の一つとみられる。

めまいを示すメニエール病、メニエール症候群自律神経失調症などのときは、頭頂部に浮腫を呈することが多く
、自律神経失調症のときは百会を中心に熱を帯びた浮腫があり、これを通天、絡却から百会に向けて
刺針するのはよい治療法の一つである。角孫に刺針したり刺針後雀啄するのも一法である。

耳門や翳風、完骨も用いられる。

また外関も三焦経というめまいに関連する経絡のツボとして用いられ、またその近くの養老も用いられる。

急なめまいが生じたときは第4,5指の中間の液門は救急として用いてよい。

この時は人中中央の水溝を強く圧迫することもよい。

また第2大敦(足第一指爪甲中央から中枢に3mm)の刺針や銀粒貼付はめまいの治療に良く、灸はより有効である。

吐き気を伴うときは第2指のこの部に相当する第2レイ兌を用いると更に効果がある。

3)腰痛

婦人の腰痛は整形外科的要因の他に子宮後屈、骨盤鬱血、子宮付属器の炎症や癒着、妊娠分娩による
骨盤関節の弛緩などの原因で起こる。

従って胃兪、三焦兪、腎兪、志室、大腸兪のほかに次リョウを治療し、慢性化した腰痛には風市など大腿側面のツボも用いる。

委中や膀胱経の募穴、中極も重要である。

また、中封はぎっくり腰のツボとして知られている。

すべり症が前提にあるときは腰の陽関に円皮針を入れ、灸を行う。

ぎっくり腰のときは崑崙が腰の気血の渋滞をとるというので古来よく用いられている。灸は多壮灸で20壮くらいすえると
腰痛がとれるという。

4)肩凝り

産婦人科領域の肩凝りは骨盤鬱血の随伴症状として起こることも少なくない。

また更年期障害や精神的、肉体的疲労時にも起こる。

その根本のツボは風池と天柱である。

それに肩井を中心とした部分、肩凝りが肩甲間部にあるときは膏肓を用いる。

さらに天宗、膈兪を用いると肩甲骨内則付近のこりがよくとれる。

曲池、崑崙、三陰交、足三里なども用いられる。

肩凝りの灸としては風池、天柱、肩井、膏肓、天宗、膈兪に取穴して7壮づつくらい施灸する。

 

5)婦人病一般

百会は子宮脱に用いられる。

肝兪は膣の筋肉、卵巣に関連する。

腎兪は泌尿器系に関連する。

志室はステロイドホルモンに関連している。

関元兪、次リョウは月経諸症に関連する。

三陰交は婦人病全般に効く。

気穴は卵巣ホルモンなど女性ホルモン一般に関連している。

中極は膀胱経の募穴として膀胱炎、尿道炎、子宮疾患に効果がある。

府舎は便秘、下痢、生殖器疾患に効果があり曲骨は尿道疾患に関連している。

血海は月経異常の特効穴である。

陽稜泉、足三里は下肢の冷えや倦怠感に効果があり、行間は頭ののぼせ、大衝は

子宮出血に効果があるとされている。

なお婦人科の灸穴としては命門、腎兪、陽関、風市、血海、三陰交に半米粒大で

7壮すえる。

6)不妊症

不妊症は東洋医学的には腎虚であり、任脈、衝脈という妊娠と密接な関係のある

奇経も障害され、西洋医学的には黄体ホルモンが関連していると考えられている。肝兪、腎兪、志室、次リョウなどは
生殖器、内分泌に関係し、期門は肝経の募穴で生殖器に関連している。

関元、子戸(関元の右外方2寸)胞門(関元左外方2寸)気門(関元左右外方3寸)の5穴へ半米粒大の灸
20−50壮の灸治療が不妊症の特効穴である。

気海は腎経の募穴で昔から臍下丹田に力があれば気力充実するといわれている。

関元は小腸経の募穴で深部は小腸と膀胱の境界であり、ここより連絡し子宮に交わる穴である。三陰交は昔から
「女三里」ともいわれ、婦人病の特効穴である。
************************************




足の少陰腎経


1.湧泉

趾をかがめて足底に生じる陥凹中。
 

腎臓疾患を主る。

急性、慢性腎炎で浮腫が甚だしい時灸すると著効有り。

足底が痛んで足が着けないものに効く。

松本氏は「足底でも踵、失眠付近が痛い場合は湧泉が効く。
靱帯の痛みには中封

(肝経;内果前1寸、前脛骨筋腱内側下際陥凹部)曲泉
(肝経;膝を深く屈し膝窩横紋内端)を使用するが
特に曲泉が重要で、多壮灸をする。」と述べている。
(医道の日本1999,12)

鍼灸説約に「この穴、足心神気の注ぐところなり。
針が巧みでなければ刺すことなかれ、急症にあらずんば
灸することなかれ。灸 は麦大の如くす。」

歩く時ひどいので灸はあまり大きくしないように注意すべきである。

ここは腎経の起こる場所なので腎虚に効くのではないか?

冷え性や泌尿生殖器疾患にも効くように思うのだが、
鍼灸治療基礎学には書いていない。

他の文献も調べてみよう!


2.然谷

舟状骨(内果の前下方に隆起している骨:昔は然骨といった)
下際の陥中で、
舟状骨隆起とその前にある内側楔状骨の
関節面にとる。

沢田流ではこの然谷の前方1寸のところ赤白肉際にとる。

足底痛、足の火照り、足の冷えに効く。


3.太谿

内果後ろ5分、後脛骨動脈を触れる陥中。

沢田流では内果下5分、内果下際と舟状骨下際を結ぶ
線の中央にとる。

ここに針灸すると腎経の経絡にひびく。一般の照海と一致する。

なぜここを照海と言わず太谿と言うかといえば、ここが腎経の
原穴として最もふさわしい効果をあらわすからである、という。

腎臓疾患を主る。腎炎などに効く。

中耳炎、耳鳴りを治する。内経に「耳は腎の候なり
(耳のことは腎をうかがえ)」とあって耳の病は腎を
治すればよいことになっている。

足の冷え、レイノー病、間歇性跛行に効く。間歇性跛行では
後脛骨動脈を振れないものがあり、その時は動脈上に針灸を行う。

腎経の原穴。


4.照海

内果直下5分。沢田流太谿。

陰キョウ脈の生じるところ。


5.築賓

太谿上5寸。(脛骨内側顆から内果まで1尺3寸)腓腹筋とひらめ筋の境目、脛骨後縁からおよそ1寸。
踵を上げ腓腹筋に力を入れると筋が浮き出てとりやすい。

下毒の特効穴。小児の胎毒、薬毒を下す

陰維脈のゲキ穴。

ここに灸すると人によって水瀉性の下痢をすることがあるが、自然に止まるので

下痢止めの薬はあえて用いない方がよい。用いるとかえって具合が悪くなることがある。


6.陰谷

膝を少し曲げ、膝窩横紋の内端で半膜様筋腱と半腱様筋腱の間にとる。

膝を深く曲げて横紋の内端に曲泉(肝経)をとり、膝を少し伸ばし膝窩内側にある2つの腱の間に陰谷をとる。

膝関節炎、リウマチ、腎機能低下に効く。


7.横骨

曲骨外方5分。

膀胱炎、尿道炎などの泌尿生殖器疾患に効く。

この主治は曲骨とほとんど同じである。

はたして5分しか離れていない穴で効果の違いがあらわれるのだろうか?

腎経は横骨から幽門までは任脈の外方5分(1.5cm)歩廊から兪府までは

胸骨縁を去る5分のラインを通る。

歩廊から兪府までは肋間の内縁なので呼吸器疾患などでは圧痛が現れ、針灸により呼吸が楽になるなど
任脈には無い効果が期待できるが、横骨から幽門までの穴においては任脈と差があるとは思えない。


8.大赫

中極(恥骨上1寸)外方5分。

膀胱炎で尿意頻数のとき針すると尿道の方へひびく痛みがあり著効を示す。

陰萎症、女子不感症、月経痛に効く。

この主治も中極とほぼ同じ。

ちなみに中極の主治は

@膀胱、生殖器疾患:膀胱炎、尿道炎、前立腺肥大、陰萎

A婦人科疾患:子宮内膜炎、月経不順、不妊症

B腎炎

C坐骨神経痛、頭重、小児の夜尿症

となっている。


7.肓兪

臍の傍ら5分。

肓兪とは肓を治すの意味。肓は膈上の薄膜(横隔膜)で、その源は気海にある。

腎臓病を主る。腎炎、腎盂炎に効く。

糖尿病、下痢、胃下垂、胃アトニーにも効く。

なぜ消化器疾患にも効くのか?

表裏関係は膀胱経だし、同じ少陰は心経であり、直接消化器には関係ない。

消化器疾患に効くのは、経絡というより皮膚分節(デルマトーム)による神経作用(皮膚の神経を刺激すると
脊髄を介して内蔵の自律神経を刺激する。)によるものではないだろうか?

そしてこんどは、臍付近の他の経の穴をみると

肓兪外方1寸5分の天枢(胃経)の主治も下痢、便秘、腸炎などの大腸疾患の他

腎炎、腎盂炎に効く、とある。

肓兪外方2寸5分の大横(脾経)も便秘、腹膜炎のほか月経困難症に効く、とあり腎(生殖器)の主治もあることが分かる。

神闕(臍)は激しい腹痛、下痢、小児消化不良などに効く(塩を盛って灸する)が、腎臓疾患については不明である。

つまり消化器を主る経穴にも腎の主治があることが分かる。

なぜだろうか?

個人の推測として、腹部領域は経絡の走行で振り分ける方法の他に、部位によって五臓を振り分ける方法がある。

一般の五臓の配置と夢分流の配置を見ると

両者とも臍付近は消化器(胃、脾)と泌尿生殖器(膀胱、腎)が分かれる所である。従って消化器と泌尿生殖器の
両者の主治を持つものと考える。

しかし、この図によれば、臍から上は消化器、臍から下は泌尿生殖器の影響が強いと思われるので、
腎経、胃経、脾経については考慮すべきである。

この五臓の配置を見ると横にスライスされている領域を縦に経絡が走行しており

腎経なら腎疾患、胃経、脾経なら消化器疾患と簡単に割り当てること自体に無理があると思う。

腹部については経絡、臓腑の領域、圧痛を総合的に判断して治療しなければならない。


8.陰都

中カン傍ら5分。

陰都は陰の集まるところの意味。

中カンの延長とみて中カンだけで効果が薄い時、陰都を併用すると効果が上がることがある。

胃疾患を主る。胃炎、胃潰瘍、胃アトニーに効く。

気管支炎、喘息、咳にも効く。


9.幽門

巨闕(胸骨端下2寸)の傍ら5分。

嘔吐、咳、気管支炎、咽頭炎に効く。

この幽門は解剖学上の胃の下口、幽門とは違い「かすかな門」即ち胸腔内を指すのではないか、
と代田氏は書いている。胃の上口、噴門なら位置的に近いがいずれにしても胃の部位を表しているのではない。

ちなみに胃の位置は最も高位にある胃底の上端は横隔膜に接し左の第5肋骨の高さに達し、最下端である
大弯の底部は胃が空虚の時、左の第10肋骨前端の高さで、成人で臍より約3横指上方であるが膨満時には
第3腰椎付近まで下がる。

また幽門は第1腰椎の右側に位置する。


10.神封(しんぽう)

 中外方2寸(胸骨縁外方5分)、第4肋間にとる。

狭心症、心臓弁膜症、肋間神経痛に効く。

喘息、激しい咳ではここに圧痛が出るので圧痛を目標に鍼灸を行う。

深針はせず、切皮だけでよい。


11.神蔵

紫宮(胸骨を9寸として天突下4寸6分)外方2寸(胸骨縁外方5分)、第2肋間

にとる。

心臓神経症(器質的心疾患がないのに心臓を極度に意識し、心臓に関した種々の症状を呈し
心臓病のため死ぬのではないかという不安と恐怖を感じる状態。戦場の兵士に頻発するので
兵士心臓ともいわれる。精神的内因とストレスによる。)、高血圧に効く。

神蔵、神封、督脈の神道、膀胱経の神堂、心経の神門はお互いに相応ずる。

神のつく穴は皆心臓に関係する。


12.兪府

旋機(天突下1寸)外方2寸、鎖骨と第1肋骨間にとる。

喘息、気管支炎、喉頭炎、バセドウ病(旋機とあわせて)によく効く。

長野流では更年期、実年期の肩凝り、腰痛、神経痛、不眠などの不定愁訴を兪府+築賓
または兪府+照海のセット置針で治療している。

長野氏によると兪府は副甲状腺ホルモン(パラトルモン)を増加させ血中カルシウムを増加させるという。
ということは血中カルシウムを増加させて不定愁訴を改善させるのか?

また築賓、照海、太谿、復留はステロイドホルモンを増加させるという。

築賓が毒消しのツボとして使われるのはそのためか?

霊枢によれば「腎は上がり肺に連なる」とあり腎と肺は相関する事が多い。

気管支炎や喘息が太谿でよく治ることでもわかるし、胸部の腎経に圧痛が出ることでも分かる。(第2-5肋間によく出る)

頑固な咳が陰都(中 傍5分)や幽門(巨闕傍5分)に反応をあらわし、そこに針灸するとたちどころに症状が緩解することが多い、
と鍼灸治療基礎学に書いてあるが、喘息時の胸の圧痛は咳をする時、肋間筋が激しく収縮するためによるものであると考える。

なぜなら、腎経沿いだけでなく、胃経沿いにも圧痛は出るし、経絡沿いというより肋間に沿って圧痛が出るからである。

そして圧痛に針灸を行うと肋間筋がゆるむので呼吸が楽になるのである。

「腎は耳を主る」というのも内経の説であり耳の治療にも腎経、特に太谿を使う。

脈度篇には「人気は耳に通ず。腎和するときは耳よく五音を聞く。」とある。

歳をとって耳が遠くなるのは腎気が少なくなってくるからであろう。

「腎は骨を主る」(九鍼論)といい「腎は骨髄を生ず」(陰陽応象大論)ともいう。骨膜炎に腎兪、太谿を用いる理由である。

腎経と膀胱経は表裏をなし、病が陰から陽、陽から陰にいくことがある。

例えば風邪の時に風門に灸していると悪寒がとれ翌日は咽が痛くなることがある。

その時多くは胸部腎経の兪府、或中に圧痛をあらわし、これを治療すると咽痛が

とれる。これは病が陽の膀胱経から陰の腎経に出てきたものである。

築賓は陰維脈のゲキ穴で下毒作用がある。モルヒネ等鎮痛剤の薬毒を消すには築賓に灸するとよい。

腎の募穴は胆経の京門である。(第12肋骨尖端、沢田流では志室)

腹部における腎経は任脈外方5分となっているが、任脈と胃経の間で圧痛により随時寸法は変化する。1寸位になるときもあり、
5分というのはあくまで基準である。



手の厥陰心包経


1.曲沢

肘窩横紋の中央にとる。深部に上腕動脈が走り拍動が振れる、
 

とあるがわずかに振れる程度である。

上腕二頭筋腱があるので針をする時は腱を避けてやや
外側に刺入する。

咳の頻発を治する。

肘関節炎にも効く、とあるが肘の痛みで曲沢が痛いというのは
今までみたことがない。たいてい上腕骨外側上顆炎、
内側上顆炎である。

ただ上腕二頭筋の使い過ぎで腱鞘炎を起こした場合曲沢付近が
痛むことがある。


2.ゲキ門

手関節横紋中央(大陵)と曲沢を結ぶ線の中央にとる。

沢田流ゲキ門は曲沢から約三横指のところにとる。

ゲキ門・孔最・手三里は筋を隔てて同じ高さにある。

沢田流ゲキ門の下には円回内筋があり、押すと圧痛があり、
確かに穴があるようだ。
心臓疾患(狭心症、心悸亢進)の特効穴。

神経症、指先のしびれ感を治す。

肩甲間部の膏肓付近が張っている時にゲキ門に反応が
現れることは著明で、ゲキ門の針灸で肩甲間部の痛み、
張りがとれる。

心包経のゲキ穴。


3.内関

手関節掌側横紋正中を上る2寸。

橈側手根屈筋腱と長掌筋腱の間にとる。手関節を屈曲すると
腱が浮き出るので分かりやすい。

心悸亢進に効く。

神経症、乗り物酔い、吐き気にも効く。

乗り物に乗る前に内関に円皮針または銀粒を貼ると酔い止めになる。

リストバンド型の製品も売っており、効果は一般にも認められている。

なお、この製品は両手に装着するが、1個しかないときは右手に
するよう書いてある。心包経が陰経だからであろうか?


4.大陵

手関節(橈骨手根関節)横紋正中の陥凹部にとる。

橈側手根屈筋腱と長掌筋腱の間にとる。

心臓疾患の主治穴である。

心主、鬼心の別名がある。心包経の兪穴。

古典に「五臓の気いずれにあるかを知らざる時は大陵または
ダン中をとる」とある。どういう意味であろうか?


5.労宮

手掌の中央にとる。中指と薬指を屈してその先端があたるところ。

3,4中手骨間の陥中である。

極度の疲労に用いて著効がある。

灸はあまり大きくしないこと。

心包経を手の心主ともいう。これについて張介賓は「心と心包と元同一臓をもってその気相通う。皆心の主る所なり」といっている。

滑伯仁も「心包、一には手の心主と名づく。臓象をもってこれを考えるに、心下横膜の上、縦膜の下にあり。
その横膜と相粘して黄脂の裏なる者は心なり。漫脂の外細筋膜あって糸の如く、心肺と相連なる者は心包なり。」(発揮)
といっている。つまり心包は肺動静脈、冠状動静脈を指すといっている。

代田氏は「心膜、上記動静脈および交感、副交感神経をも含めて心包と考える」と述べている。

ゲキ門は古書にも「喀血、嘔吐に効く」とあるが、乗り物酔いの吐き気には内関がよく用いられる。

また、ゲキ門は肩甲間部の圧痛、自覚痛を取るのにも良い。これは心包経のゲキ穴によって
心包経の兪穴である厥陰兪、心経の兪穴である心兪の痛みを取るということである。

又、心包経にだけ募穴が無いが、代田氏はダン中を心包経の募穴としているという。

確かに気会穴であるダン中は主治に心臓疾患、神経症があり心包経の募穴と考えても充分説得力がある。

さらに鍼灸抜萃大成では心包をダン中と呼んでおり「ダン中は臣使の官、喜楽出ずという。心包絡の臓は膈膜の上、
心と並んでダン中に居り、心の君火に代わって事を行う。相火なり。これ実に真心の臣使なり。心包の陽気ダン中に
和する時は上焦開発して喜楽出ず。按ずるに諸々の症、心病といい心邪ともいうもの皆これ包絡の病を指す。
しかるに世俗誤って真心(心)と包絡(心包)との分かちをみだりにして皆心病となす。しかるに方剤を混雑して
治験得難し。思慮をもって量るべし」とある。




手の少陽三焦経


1.液門

小指と薬指の間。手を握って取穴する。
 

沢田氏は薬指と中指の間に取る。この方が
三焦経によくひびくという。

薬指の麻痺を治するに著効がある。

沢田流液門は中焦以上に針して、誤って気絶させた時に
もどすのに重要な穴であるという。


2.中渚

4,5指中手指節関節の後方1寸。

ほぼ第3腰腿点と一致する。

急性腰痛で痛みがひどいとき第2,3、第4,5指の
中手骨接合部に刺針してひびかせ

腰を前後左右に動かさせる。痛覚閾値を上昇させ
痛みを和らげる。

腰痛の80%位に効く。痛みが強い場合は初めに行い、
普通は矯正や針灸であまり痛みが取れないとき
最後の手段として使う。難点は手が痛いこと。
静脈に当てると内出血を起こすので注意。

2,3中手骨接合部(第1腰腿点)のやや前方は落枕穴
といって寝違えの時、腰腿点と同じくひびかせてから
少しずつ首を動かさせる。横に広がるグリグリのスジを
見つけて刺針雀啄。刺針前に指で押して首の可動域が
大きくなるか痛みが楽になるなら非常に良く効く。
少し強めに刺激すると良い。


3.陽池

手関節後面横紋中央、尺骨茎状突起下端と同じ高さにとる。

橈尺関節上にとる説と、中央にとる説がある。

経穴概論には総指伸筋腱と小指伸筋腱のあいだにとる、
とあるがこの二つの腱は
尺骨茎状突起の内側で一つの
幅広い腱になっているので間をとるのは難しい。

従って横紋中央の幅広い腱上にとる。

三焦の停滞を通ずることを主る。

乳糜管の吸収をよくし、帯下を治し、心臓の鼓動を調整する。

また子宮の位置の不正を矯正する。

左腹直筋の緊張を和らげ、妊娠嘔吐を止める。

三焦経の原穴。

三焦経は陽なので左(左は陽、右は陰)に灸する。


4.外関

陽池上2寸、橈骨と尺骨の骨間にとる。

これも経穴概論では「総指伸筋腱と小指伸筋腱の間にとる」
とあるが間をさぐりあてるのは無理なので、中央の骨間にとる。

手関節炎に効く。

ここに針すると腹の大巨の圧痛がとれる。

三焦経の絡穴。


5.三陽絡

陽池上4寸、骨間陥中にとる。

三陽(陽明、太陽、少陽)の邪気を治することを主る。

ゆえに頭痛に効く。(三陽経は全て頭を通るから)

また、どこの部位でも激烈な疼痛がある場合、三陽絡に刺針して
ひびかせて置針すると疼痛が即座に緩解することが多い。

代田氏は激烈な坐骨神経痛の痛みを三陽絡の刺針で即座に緩解させた
ことがあると述べている。おそらく胆経沿いの痛みを同じ少陽経の
三焦経で治したのであろう。

ここは刺針すると3−5分でひびき、重苦しさを感じる。

また、伸筋上なので指を動かすと針が動き、痛みを感じる。

ここは腰腿点、合谷と同じく痛み閾値を上昇させて痛みを抑えるのであろうか?

鍼灸説約に「中風肘腕挙がらざるを治す。数々試みて数々効あり。按ずるにこの

穴諸書針を禁ず。未だ必ずしも然らず。」とあり、禁針穴でも害はない。むしろ

腕の挙がらないものを治すとあり、五十肩にも応用できるかもしれない。

ただ、当然経絡の流れからして肩外側の痛みに効果があるだろうと推測できる。

是非試してみる必要がある!


6.四トク

肘関節下5寸の陥中。

沢田流では、肘関節下2寸、孔最、手三里と並び手三里と一筋隔てた陥中。

小指伸筋と短橈側手根伸筋の筋間、押すと薬指のほうまでひびき、圧痛がある。

余りに痛いので初め手三里かと思ったところ。

肘を伸ばし、手関節を伸展させると筋間がわかりやすい。

上歯痛を治する。耳鳴り、偏頭痛にも効く。

前腕の神経痛、麻痺、肩背痛にも効く。


7.臑会

肩リョウより肘頭に向かって3寸、三角筋後縁にとる。押すと圧痛がある。

五十肩に効く。

臑会の前方、肩 下4横指のところが臂臑(大腸経)、腋窩横紋上2寸が臑兪(小腸経)。
五十肩では肩関節付近の痛みと共に臑会、臂臑付近の痛み、つっぱり感を訴える患者が多い。

臑は上腕のこと。臑会、臂臑、臑兪、混同しないように!


8.肩リョウ

肩グウ(三角筋の前方の窪み)後外方1寸5分の陥中にとる(三角筋後方の窪み)

五十肩、上肢の神経痛、歯痛に効く。刺す時は肩鎖関節と上腕骨の間に入るように。


9.天リョウ

肩井の後1寸、肩甲骨上縁にとる。

鍼灸治療基礎学では「肩甲骨内上隅のやや外上方にとる」とあり経穴概論には
「肩井と曲垣(肩甲棘起始部直上)の中間にとる」とある。

肩井と曲垣の中間を探るとややくぼんで圧痛のあるところがある。

ここが天リョウであろう。

また、肩井後1寸よりやや内側に肩甲骨の上角が触れる。ここは押すと頭まで通る痛みがある。
ここにも穴がありそうである。(膀胱経:附分)

ただし強刺激ではすぐ脳貧血を起こしそうなので注意が必要。

肩凝り、後頭痛、偏頭痛、高血圧等に欠かすことのできない名穴。

肩凝りで捻針をする場合、ここから肩井に向けて刺針すると気胸は起きない。

ただし、硬結に針先を当ててしつこく捻針すると脳貧血を起こすので注意が必要である。

五労七傷を治する、とある。

五労七傷とはなんだろう?文献には載っていない。

************************************

中医学の病因としては

◎六淫:風・寒・暑・湿・燥・火の外感病邪の総称。

正常な状況では自然界の気候変化を指しており「六気」と称されている。

しかし、過剰、不足、時期に反しての出現、人体の適応能力を超えたとき、人体の抵抗力が落ちているとき
などは疾病の原因となり、この時「六気」は「六淫」

または「六邪」と呼ばれる。

六淫の感邪ルートの多くは皮毛、口鼻から人体に入る。

◎七情

七情とは喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の感情変化のことである。

正常な状態では七情は外界に対する情緒反応であり、病因にはならない。

しかし突然強いショックを受けたり、長期にわたり精神的刺激を受けて調節範囲を越えてしまうと
臓腑気血の機能失調が起こり病気となる。

************************************


10.翳風

乳様突起と下顎枝との中間陥中、指頭で圧すると耳中にひびいて痛む。

中耳炎、耳鳴り、偏頭痛、顔面神経麻痺、歯痛、咽頭炎、しゃっくりに効く。

ここは深部に顔面神経の本幹があり、翳風の前下方で多くの枝を出し顔面に分布する。
また、翳風付近には後耳介神経、外耳道神経、耳介側頭神経があるので、

神経学的にも上記の疾患に効くことが分かる。

また、翳風の深部には側頭骨の茎状突起があり茎突舌骨筋、茎突舌筋が付いている。

しゃっくりはこの穴を圧迫すれば止まることがある。

手足の少陽の会で、三焦経と胆経の会するところである。


11.角孫

耳介直上髪際、口を開けば孔あり。

耳の一番高いところのつけね。側頭筋があるので、口を開けると

側頭筋が伸展するため凹みができる。

眼科疾患を主る。

結膜炎に効く。

和漢三才図会には「耳歯及び目翳を生ずるもの(目のくもり)、之に針灸してよく治す。」とある。

三焦経、胆経、大腸経、膀胱経が会する。


12.耳門

耳珠上部欠けたところの前のくぼみにとる、拍動部で口を開けるとくぼみができる。顎関節部にあたる。

耳病一般に効く。中耳炎、耳鳴りなど。眼疾患にも効く。

主に灸するが、老人性耳鳴りへの治療効果は薄い。

老人になると腎の原気がなくなり、耳鳴り、難聴が起きてくると考え、腎気を補う灸をするが、
病でなく年齢による気の減少を灸で補えるのだろうか。

年齢による気の減少からくる機能低下はむしろ自然であり、灸で補い機能向上を図るのは
無理があるのではないだろうか?

昔に比べ平均年齢が大幅に伸びた現在において、古典に書かれたものをそのまま当てはめることはできない。
江戸時代では平均年齢が75−80歳など考えられないことであるし、70歳以上での老人性耳鳴り、
難聴など例がなかったはずである。実際老人性耳鳴り、難聴についてはわずかな効果はあっても治癒した例は

みたことがない。

ただし、若年性難聴、耳鳴りについては灸による治療を試みることは重要である。

心経の少海は耳鳴りの特効穴なので試してみる価値はある。

長岡昭四郎氏は伏臥位で耳の後ろの髪際から外耳孔に向けて3本水平刺し数分置針することにより
難聴、耳鳴りを治している。(医道の日本、1999,12)

************************************

耳鳴りについて西洋医学的にみると、他覚的耳鳴りと自覚的耳鳴りに分けられ、

@他覚的耳鳴り:他者が聞いても耳鳴り音を聴取できるもので、鼓膜張筋やアブミ骨筋などの耳小骨筋の
緊張によるもの、耳管、顎関節、脈管性(拍動音)などがある。

A自覚的耳鳴り:難聴を伴うもの

(伝音難聴(外耳、中耳の障害による難聴):中耳炎、耳硬化症(アブミ骨底周囲に骨異常増殖を生じ
伝音難聴を引き起こす。白人に多い。アブミ骨手術を行い成功すれば難聴は劇的に治る。))

(感音難聴(内耳、内耳神経障害による難聴):音響外傷、薬物中毒(ストレプトマイシン、カナマイシン、
ゲンタマイシン、アスピリン)、メニエール病、突発性難聴、老人性変化、糖尿病、聴神経炎
(感音難聴にはV.B1,12投与ステロイド、高圧酸素療法等あるが効果はない。))  

耳鳴りに対しては本質的な治療はなく、向精神薬、耳鳴りマスカーで耳鳴りを遮断する。

************************************


13.和リョウ

耳門上5分、もみあげの後ろ、拍動部、浅側頭動脈が走る。

眼疾患を主る。眼病の全てに効く。

結膜炎などに特効あり。眼病には重要な穴。

胆経、小腸経、三焦経の交会するところ。

14.絲竹空

眉弓外端のくぼみにとる。

こめかみの前縁、押すとジーンとする痛みがある。骨のでっぱりの直後。

フリッツ・フォン・エリックがアイアン・クローをした時指が引っかかるところ

三叉神経痛に針が効く。

涙腺炎にも針が効く。少し瀉血するとなお良い。

甲乙経に「灸によろしからず。之に灸すれば不幸にして人をして目小に及び盲せしむ」とある。
そのようなことはないが、顔面のため直接灸はしない方がよい。

三谷公器氏は死体解剖に照らし合わせて上焦腑を胸管及び胸郭以上のリンパ管系、中焦腑を膵臓及び
上腹部のリンパ管系、下焦腑を乳糜管及び下腹以下のリンパ管系とした。

三焦の障害による症状をあげると、

@下焦の症状

何となく倦怠感を覚え元気なく、仕事をするとすぐ疲れるというのは腎の勢力減退であって、臍下の力が虚し、
下腹の弾力が抜けているのである。

これは一般に神経衰弱とか神経症とか言われているが漢方的に言えば腎虚である。

これには大抵生殖機能減退を伴う。女子では月経不順、月経痛、不妊症、下腹部の冷感や腰部より
下肢へかけての冷感又は疼痛を引き起こす。

男子では下腹部のすじばり、腰及び足の神経痛、冷えなどを起こす。

これらは全て下焦の障害である。

A上焦の症状

下焦の障害が上焦に影響すると、まず肩が凝り(左が多い)首筋から後頭部にかけて引っ張られる。
頭痛、頭重、めまい、健忘などの症状が起こり、心悸亢進、

息切れなども起こしやすい。

B中焦の症状

中焦の障害の場合は下腹部より上腹部にかけてつかえたようになり、胃腸の具合が悪くなって
嘔吐、下痢、腹痛を起こしたり、乗り物に酔いやすくなる。

以上が三焦の障害による症状であるが、三焦の気は皮膚を栄養するものであるからこれが病むときは
皮膚が弱くなり、光沢が無くなり、風邪を引きやすくなる。

そして奇妙なことには、むく毛が生えてくる。そしてこのむく毛は三焦が実してくると抜けてくる。

三焦は体温の発生源である。従ってこれが病むと原因不明の微熱が出ることがあ

る。加えて肩が凝り風邪を引きやすくなるので、肺疾患と誤診されやすい。

原因不明の微熱が三焦の調整により治することはよくあることである。

沢田氏はこの三谷氏の説を発展させ以下の説を唱えた。

焦は熱であり体温の源である。後天の原気はこれより出る。

三焦に三気がある。宗気、営気、衛気である。

@天地間の精気(酸素)は心肺を通して体内に取り入れられる。

これを宗気という。上焦の作用である。

A天地間の精気(蛋白質、炭水化物)は脾胃膵十二指腸肝臓を通して体内に取り入れられる。これを営気という。
中焦の作用である。

B天地間の精気(脂肪)は小腸の乳糜管を通して体内に取り入れられる。

これを衛気という。下焦の作用である。

宗.営.衛の三気、これが生命の原、十二経の根である。

天地間の精気は三焦を通して人体に入りエネルギーとなる。

C熱の調整は三焦を本とする。原因不明の熱が三焦の調整により消退するのは常に経験するとこるである。

D三焦の不調は人体の不健康につながる。故に三焦を調えることを治療の根本法則とする。
陽池が重要なのは三焦経の原穴だからである。下焦の滞りが陽池、中 の二穴で治することは誠に妙である。

E下焦の滞りは皮膚の光沢に影響する。皮膚に細いうぶ毛の多いのは下焦が滞っているからであり、
灸していると体が良くなるにつれてうぶ毛が抜ける。

F下焦の滞りは左の天 (肩井下1寸)へ反応点を現すことが多く、肩凝りの原因となりやすい。
そしてそれを治するには三焦の調整が必要である。

G三焦は 中(上焦)中 (中焦)陰交(臍下1寸:下焦)と関係する。

以上非常に説得性がある説であるが、

@三谷氏は上焦を胸管としているのに対し沢田氏は上焦を心肺としているのはなぜか?胸管について調べてみると、

************************************

胸管はリンパ管の本管で、下半身全部と左上半身のリンパ管が集まる管で成人では全長約40cm、
全長にわたり数個または10数個の弁がある。

12胸椎下縁で乳糜槽(腸リンパ本幹が注ぐ所で膨大部をなす)の上端から始まり

横隔膜の大動脈裂孔を通って上行し左頸リンパ本幹、左鎖骨下リンパ本幹を受けた後

左鎖骨下静脈と左内頸静脈との合流部に入る。

右上半身のリンパは右胸管(右リンパ本幹)に注いで腕頭静脈などに入るが、この右胸管は非常に短く、
形成されないこともある。従って胸管というと上述の長い胸管を指す。

************************************

A栄養素のうち蛋白質、炭水化物と脂肪が分けられるのはなぜか?

蛋白質、炭水化物も脂肪と同じく小腸で吸収されるし、脂肪も胆汁で乳化させられるように、栄養素は
中焦下焦両方の作用を受けている。

それぞれの消化吸収についてまとめてみると、

************************************

@蛋白質

胃の主細胞から分泌されるペプシンは蛋白質のペプチド結合の約10%を切る。さらに膵液中のトリプシン、
キモトリプシンによりトリペプチド、ジペプチドまで分解される。

このジペプチドは腸液のジペプチダーゼによってふたつのアミノ酸に分解され、小腸で吸収される。

このアミノ酸は種々の細胞で体蛋白質や酵素に合成される。

なお余剰のアミノ酸はアミノ基を外され、TCA回路に入れられエネルギー源となる。外されたアミノ基は肝臓で
尿素に合成され腎臓から排泄される。

A炭水化物

唾液中のプチアリン(唾液アミラーゼ)は澱粉をデキストリン(低分子澱粉)と麦芽糖に分解する。
しかしプチアリンは塩酸で不活性化するので、この分解は胃に入るまでの間だけである。

胃ではブドウ糖、水、アルコールがわずかに吸収される。

膵液中の膵アミラーゼにより二糖類(乳糖:ガラクトース-グルコース、麦芽糖:グルコース-グルコース、ショ糖:グルコース-フルクトース)に分解される。

そして腸液のラクターゼ(乳糖)、マルターゼ(麦芽糖)、スクラーゼ(ショ糖)によってブドウ糖(グルコース)、
ガラクトース、フルクトースに分解されて小腸から吸収される。

ブドウ糖は酸化されてピルビン酸になりTCA回路に入り解糖によりADPがATPになりエネルギーが生成される。

B脂肪

胃でリパーゼが分泌されるが胃酸中では働かない。脂肪は胃で温められて軟化し十二指腸で胆汁によって乳化される。
胆汁中のグルココール酸やタウロコール酸は表面張力を下げて乳化しやすくする。

乳化された脂肪の大部分はは膵リパーゼにより脂肪酸とグリセリンに加水分解される。

脂肪のうち中性脂肪(トリグリセリド)は50%が膵リパーゼで脂肪酸とグリセリンに分解され、
25%は脂肪酸とグリセリンに分解する一歩手前のモノグリセリドの段階で止まる。
このモノグリセリドは脂肪酸とミセルをつくり空腸でほぼ全部吸収される。

その後、細胞内ではモノグリセリドからジグリセリド更にトリグリセリド(中性脂肪)にまで合成される。
グリセリンもトリグリセリドまで合成される。

つまり一度分解したものを再び合成するのである。

合成されたトリグリセリドは蛋白質とコレステリンからなるリポ蛋白の膜で覆われ1μm以下の小球となる。
これをカイロミクロンという。

カイロミクロンは小さいため膜を通過しリンパ管(乳糜管)に入る。

要するに非常に水に溶けにくいトリグリセリドをミセルあるいはカイロミクロン

のような小さな球状にして膜を通過させるのである。

なお炭素数12以下の低級脂肪酸は上皮細胞からそのまま血管に入る。

1日当たりの脂質摂取量は約55gである。

リポ蛋白質として血漿に存在する脂質は一部細胞の構成成分となり、一部はエネルギー源となり、
残りは脂肪組織として蓄積される(貯蔵脂肪)。

***********************************

以上胸管と栄養素の消化吸収について調べたが、三焦として特別な働きというものは認められなかった。

ここで三焦について自分の意見を述べると、

@三焦は本当に存在するのか?

存在すると考える。

なぜなら五行説において本当は三焦は不必要なはずである。

それは三焦、そして心包が存在すると六臓六腑となり五行説に当てはまらないからである。

事実、心包は五臓に入れられず、心を守り、心に代わって仕事をするという立場で心の周りにさりげなく付け加えられている。

そして現在も心包については心膜、冠状動脈、肺動脈や大動脈など様々な説があり一定していない。

三焦も熱の発生源として上中下三カ所あるとされているが、実体は不明で鍼灸抜萃大成等では前後から
内蔵を包むように描かれている。

もちろん実体不明なので三焦の形、重さ、長さ、ある場所などの説明はない。

しかし三焦は五腑に加えられて六腑となっている。

以上のことから実体のないものをあえて削除せず現在に至っているということは

臨床的に必要だということである。中国医学はもともと臨床第一主義なので、効くものは受け継がれ、
効かないものは捨てられて現在に至っている。

ツボというものが何であるか科学的に分からなくても使って治ればOK!という

現実主義において、実体のない心包、三焦が残されてきたのには必ず理由があり

その理由は「治療に使うと効く」ということ以外には考えられない。

更に鍼灸抜萃大成には臓腑の長さ、重さ、形、位置、働きなど細かく書かれているので
(現代の解剖学的立場からみると誤りや不正確な点はあるが)きちんと解剖し臓腑を実測したことは間違いない。

とすればそこで実際に無いものは削除されるはずである。

にもかかわらず心包、三焦は削除されずきちんと六臓六腑として解説されている。

図解も相当頭を悩ませて描いたに違いない。

目に見えないものを図に描かねばならないからである。

古人がそこまでしたのは、目に見えなくても実際の働きが認められていたからに違いない。

働きが認められているのに目に見えないものというと、内分泌系そして免疫系があげられる。

両者とも目立つような大きな臓腑はなく、血行性、リンパ性に全身に働く。

しかもいくつかの器官がネットワークを作って協力や制御しながら作用している。

以上のことから三焦についての自分の意見を述べると、

{自己意見}++++++++++++++++++++++++++++++

三焦は内分泌器官のことで

上焦は甲状腺、胸腺−−−−全身の代謝の活性およびリンパ球活性による免疫作用

中焦は膵臓尾部(ランゲルハンス島)−−血糖のコントロールによる全身の組織の活性

下焦は副腎及び精巣、卵巣−−全身の代謝の活性および生殖能力の活性

を指していると考える。

下焦の男女生殖器は腎の一部として解釈する場合削除してもよいが、性ホルモン分泌作用は下焦に入れる。

また、副腎も命門もしくは腎の一部とする解釈があるので除いてもよいかと考えたが、
副腎皮質ホルモン(グルココルチコイド)は万病に効く物質であり効果も抜群なので全身に活性を与えるものとして
単独で下焦と考えても充分な働きがある。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++




足の少陽胆経


1.瞳子リョウ

眼の外端5分の陥中にある。
 

絲竹空の下で頬骨弓に続く骨のでっぱりの直後。

押すとジーンとした痛みがある。

結膜炎、三叉神経痛に針が効く。

医学入門に針灸を禁ずとあるが5分位刺針しても
さしつかえない。

「顔面なので美容上灸はしない方がよい」とあるが、
弱い間接灸なら大丈夫。

顔面の灸はとても気持ちがいいので眼精疲労や
眼瞼痙攣に用いて好評である。

小腸経、三焦経、胆経が交会するところ。

主治もほとんど絲竹空と同じ。


2.聴会

聴宮下部の陥中、口を開くとくぼみのできるところ。

脈動部、浅側頭動脈が走っている。

耳珠の前方、上から耳門(三焦経)、聴宮(小腸経)、
聴会(胆経)の順で並ぶ。

中耳炎、外耳炎、耳鳴り、顎関節炎、三叉神経痛、
顔面神経麻痺に効く。


3.客主人(上関)

頬骨弓中央上際、拍動部。頬骨眼窩動脈が走っているが
拍動はわずかである。

瞳子リョウと並列し、下関(胃経)と頬骨弓を隔てて対応する。

一切の眼病に針、または瀉血して効果がある。

顔面神経麻痺、三叉神経痛にもよく効く。

高血圧の場合ここの血絡を瀉血すると良い。

刺針するときは頬骨に沿って(前方から後方へ刺入)行う。

1センチほど上方に刺入すると皮下静脈(浅側頭静脈の枝)
にあたり内出血をおこすことがある。ただし血絡に刺絡する
時は内出血は起きない。

深針禁止。一般に動脈上の穴は禁針穴となっている場合が
多いが、深く刺さなければ問題はない。


4.完骨

乳様突起後方のくぼみにとる。乳様突起尖端を2分ほど
上がった後側の陥中にある。経穴概論では「乳様突起後方
髪際を4分入った陥凹部にとる」とある。

あまり髪際にはいると風池になってしまうので、乳様突起後際に
とると良いと思う。前方に向かって押すとひびく。

指で圧迫すると頭の側部にひびいて痛む。

乳様突起には胸鎖乳突筋と頭板状筋(第3頸椎−第3胸椎から
起こり乳様突起、上項線外側部に付く)が付いているので、
特に胸鎖乳突筋が張っている時には強い痛みがある。

小後頭神経が風池から完骨にかけて分布している。

偏頭痛、めまい、頸項強に効く。

膀胱経、三焦経、胆経の交会するところ。

************************************

落枕(寝違え)について

落枕では完骨から風池にかけて圧痛が現れるので圧痛を目標にして針灸を行うが

なかなか運動制限はとれない。

局部のマッサージも、その時多少運動制限が緩和されても次の日になると前より痛みが増し、動く範囲も狭くなることが多い。
つまり症状の悪化である。

これはマッサージにより筋肉の炎症が悪化した結果である。

◆軽い落枕(首はある程度回せるが角度が大きくなると痛む)の場合は、雀啄捻針で炎症筋、筋膜にひびかせた後
筋肉を緩めて矯正した方が良い。

◆重い落枕(首が痛い方にほとんど回せない)の場合は、炎症筋、筋膜にひびかせることを目標にして雀啄捻針を行う。
マッサージは軽く行う程度にし、絶対強くしてはいけない。矯正も行ってはいけない。炎症をひどくするだけである。

筋、筋膜の炎症がひどいときはアイシングも必要な場合もあり。

なお、項頸部は膀胱経、三焦経、小腸経、胆経が通るので該当する経絡も一緒に治療しなければならないのかもしれない。

実際、肩甲骨内側の圧痛に灸したら項頸部の苦しさがとれることはよく経験することである。
この場合は腕の使い過ぎによることが多い。

また落枕という奇穴への治療として「現代鍼灸治療の実際」(松本勅著)では以下のように書いている。

手背第2,3中手骨間で中手指節関節の後方5分には奇穴の落枕穴(落枕とは寝違えのこと)があり頚部の筋肉痛に
効果を示すことがある。

刺入後に雀啄し置針して首の運動をゆっくり行うが、時々雀啄を行いながら運動を続けると痛みが次第に軽減し
運動範囲が広がっていくことがある。

実際やる場合は落枕穴を探り、グリグリしたスジを見つける。これに刺鍼しないと効かないので慎重に探す。

寝違えの人はそこを指圧すると飛び上がるほどの圧痛がある。

その穴に刺鍼し上下左右にゆっくり首を動かさせる。最低5分はやってもらう。すると痛みが軽減し可動範囲が大きくなることが多い。

しかし局所への刺針と組み合わせて行った方が効果は大きいし持続効果も得られやすい。

頚部の局所治療については同著では

1)棘突起間に圧痛や浮腫状の硬結(ギョロギョロした感じ)がある時は棘間に1.0

1.5cm刺入し軽く雀啄する。

2)風池、完骨に筋緊張、圧痛、硬結がある時はその部に刺入し針の抵抗感がとれるまでゆっくり雀啄する。

3)肩甲挙筋、僧帽筋、斜角筋などの刺針の際は刺入後に突っ張りや痛みが起こる動作を軽くさせ、
その筋を伸展させてから数回の雀啄を行い、動作を戻させて(筋を弛緩させて)から抜針すると著効が得られやすい。
(一種の運動針)

この時、指頭で圧迫した状態で首を動かさせてみて突っ張りや痛みが軽くなるところを選ぶと効果的である。

いずれにしても運動制限の大きい重度の落枕については強いマッサージは逆効果になることが多く、針灸主体の治療が必要である。

針では押して痛いところを雀啄捻針し、ひびかせるように、もしくは痛みが再現されるようにする。

一回で治そうとしてあせってはいけない。

針灸で筋を緩める程度とし、安静をすすめる。

特に痛くなって直後は筋の緊張も強く痛みも強いため要注意である。

このような重度の落枕では、矯正すると一時的に可動範囲は広がることはあるが、

すぐ痛みは戻ってくるし、痛みの無かった方まで痛くなることがある。

これは筋の炎症による症状の悪化であり、絶対に避けなければならない。

逆に、首を曲げると突っ張るが痛みはそれほどでない場合や、むちうち、落枕から時間がかなり経過している場合は
筋を緩めて矯正すると良い。

************************************


5.目窓

臨泣(眉弓中央の上髪際5分)の後ろ1寸。

流涙、眼の痛み、三叉神経痛第1枝の痛みに効く。

目窓は目の窓、眼病に効く。

資生経に「三度刺して目大いに明なり」とある。

膀胱経の攅竹(眉弓内端)も「三度刺して目大いに明なり」とある。

三叉神経の第一枝、眼神経のうち眼窩上神経は外側枝(眼窩上孔から出る)、内側枝(前頭切痕から出る)に分かれ
眼窩上部から前頭部へ分布する。

目窓はこの通り道にあり、押すと圧痛がある。

ちなみに第二枝上顎神経は眼窩下孔、第三枝下顎神経ははオトガイ孔から出る。

三叉神経は知覚部と運動部とからなる混合神経で脳神経中最も大きい。

その知覚部は頭部および顔面の大部分に分布し、運動部は深頭筋、咀嚼筋、顎舌骨筋、顎二腹筋の前腹を支配する。


6.正営

目窓の後ろ1寸、膀胱経の承光と並ぶ。

眉弓中央上髪際から2寸5分。

押すと圧痛有り。

偏頭痛、てんかん、胃酸過多等に著効有り。

また同側体部の圧痛を鎮める。

これはどういうことであろうか?痛覚閾値を上げるのか?


7.承霊

正営の後ろ1寸5分、膀胱経の通天と並ぶ。

側頭痛、胃酸過多症、肝臓疾患に効く。

同側体部の刺激過剰の鎮静に著効がある。

押すと通天の方が効く。通天は偏頭痛の名穴(針灸ともに)。


8.脳空

承霊の後ろ1寸5分、外後頭隆起の傍ら1寸5分の陥中にある。

外後頭隆起上際陥凹部に脳戸(督脈)がある。

按圧すると疼痛あり、ぐりぐりしたものを触れる。

このぐりぐりは後頭リンパ節ではないか?(後頭リンパ節は数は2−3個で僧帽筋起始腱の上にある。)

頭痛、後頭神経痛に効く。

脳空は大後頭神経の通り道にあたる。(大後頭神経は第2頸神経の後枝で頭板状筋と僧帽筋の腱を貫いて
脳空のやや下で皮下に現れ後頭部皮膚の知覚を司る。

なお、小後頭神経は第2−3頸神経の前枝からなり、胸鎖乳突筋の後縁に沿って

上り、後頭に達して大後頭神経と大耳介神経との間に分布する。大耳介神経は

第3−4頸神経前枝からなり、胸鎖乳突筋後縁中央で外面に出て耳介下半分と付近の皮膚に分布する。)

和漢三才図会に「頭風痛み忍ぶべからざるものはここを刺さばたちどころに癒ゆ」

とある。


9.風池

乳様突起と風府(外後頭隆起直下5分)の間、按圧すれば頭にひびき痛む。

小後頭神経の経路にあたる。(小後頭神経は胸鎖乳突筋後縁中央から出るので

風池より2−3横指下から出ることになる。)

頭痛、偏頭痛、感冒、肥厚性鼻炎、蓄膿症、視力減退、乱視など応用は広い。

風邪の際には初めにこの部が鬱血し過敏になってくるので、その時針灸すると風邪を予防することができる。
また風邪を引いてしまった後でもここを治療すると早く治る。

風池は風の邪気の集まるところである。

風には感冒と脳溢血(脳出血)の両方の意味がある。

従って中風は風邪感冒と脳溢血の両方を指す。

ちなみに現代での中風は脳出血の後遺症により手足がうまく動かないことをいう。

石坂宗哲は「三稜針を以て風府風池二穴の血を瀉し、その亢熱をもらすに数々試みて数々効を得たり」と言っている。


10.肩井

大椎と肩グウの中央。

眩暈、頭痛、項頸強、肩凝りに効く。

三焦経、胆経、胃経、陽維脈の会するところ。

針で脳貧血を起こしやすいので注意。

天リョウ(三焦経:肩井下1寸)の方から前方に向けて刺針すれば気胸の心配はない

し、硬結をしつこく捻針しなければ脳貧血も起きない。

もし脳貧血が起きたら横にしてすぐ三里に雀啄し返し針を行う。

すぐ戻さないと頭痛などが起きることがある。

また空腹時は脳貧血が起きやすいので、早朝の治療では朝食を食べたか確認する。

鍼灸説約に「劇症にあらずんば針すべからず。過って宗脈にあたれば人をして昏冒せしむ。
千金にいわく、産難には針1寸、上気逆するには灸二百壮」

鍼灸則にも「婦人難産堕胎の後手足力無きもの、ここに針すれば即座に癒ゆ」

類経には「妊婦針を禁ず」

十四経発揮には「もし刺すこと深ければ人をして悶倒せしむ。すみやかに三里を補えば平復す。
およそ肩井を刺すものは皆三里を以てその気を下す。妊婦には針を禁ず。」とある。

なぜ妊婦には禁針なのか?

鍼灸医学の肩井の主治には「難産、胎盤残留」とあるので、気血を下げる作用があるのではないか?
それなら三陰交、合谷と同様胎児が引き下げられて流産する可能性はある。

返し針に足三里を使うのは効用に「気血を調える」作用があるため、下がった気血を元に戻すからであろう。

それにしても気血を下げる働きとはどんなものであろうか?

肩井の針による脳貧血のメカニズムをしらべてみよう。

恐らく血管が瞬間的に拡張するのではないか?でも血管に付随している自律神経は交感神経だけで
血管収縮しか行えない。瞬間的に血管が拡張するためには何が必要なのか?

************************************

肩井の針が脳貧血を起こすわけ

@総頸動脈が収縮するのではないか?

まず心臓からの動脈の流れをみてみると、

                         ┌→ 腕頭動脈 ┬→  右総頸動脈

        心臓 → 大動脈弓 ┤            └→  右鎖骨下動脈

                         ├→ 左総頸動脈

                         └→ 左鎖骨下動脈

以上のように左右で異なっている。ゆえに総頸動脈の収縮のメカニズムは左右で異なるかもしれない。

肩井付近に分布しているのは鎖骨下動脈から枝分かれしている肩甲上動脈であり、

この動脈を針で刺激したからといって反射的に総頸動脈が収縮することはない。

血管の収縮、拡張を起こす反射には以下のようなものがある。

生理学(真島英信著、文光堂)によると

(1)圧受容器を介する反射

動脈血圧が上昇すると、頸動脈洞あるいは大動脈などの受容器が興奮し、血管運動中枢(延髄にある)の昇圧部は抑制され、
降圧部が刺激される。

その結果血管拡張が起こり血圧が下がる。

逆に血圧が下降した場合は、昇圧部への抑制は減少して血管収縮が起こり、血圧は上がる。

(2)交感神経との関係

昇圧部は交感神経の心臓促進中枢と連絡があるので、交感神経興奮の時は心拍が促進されると同時に血管収縮が起こる。

(3)化学受容器を介する反射

血液中のCO2増加、O2欠乏、pH減少などにより頸動脈小体、大動脈小体などの化学受容器が興奮すると、
血管収縮が起こり血圧は上昇する。CO2増加は同時に呼吸中枢を刺激し呼吸を促進させる。

************************************


11.日月

乳頭線上の肋軟骨付着部(第9肋軟骨)直下5分にとる。

胆嚢、胆道疾患を主る。

胆嚢炎、黄疸に針灸して効有り。

胆嚢疾患の時は多く右の日月または期門に反応がでる。

期門(肝経の募穴)が第9肋軟骨付着部直下なので、期門と日月は5分しか離れていない。つまり殆ど同じ場所といってもよい。

しかも日月も胆経の募穴である。

したがって肝と胆の病が集まる場所は同じである!ということである。

期門の主治は肝臓疾患(肝炎、肝硬変、肝機能障害、胆石)であり日月と共通するものもある。

なお、肝炎、肝硬変などでは右の日月、期門付近に圧痛が出ることが多く、酒の

飲み過ぎにより肝臓に負担がかかっているときも圧痛が現れる。

この時は肋軟骨に沿って圧痛をとり、灸をするとよい。

薬による肝機能障害で薬が飲めない場合も灸が効く。


12.京門

第12肋骨尖端の下縁。

第12肋骨尖端はおよそ第2腰椎の高さに達し、脊柱起立筋よりやや外方まで伸びる。

ところが、沢田流では第12肋骨尖端と腸骨稜の中間、腎兪外方1寸位のところで最も反応のあるところにとる。
ここは志室とほぼ一致する。

なぜこのような取穴をするのかというと京門に腎の募穴という特性を発揮させるためである。

腎臓の反応は第12肋骨尖端には出ず、志室付近に出るからである。

しかし必ずしも志室にこだわらず、第12肋骨尖端と腸骨稜の中間で最も反応の強いところにとればよい。

腎臓疾患を主る。腎の募穴。

腎臓炎、腎盂炎に必須の穴。

胆石、坐骨神経痛では患側に圧痛をあらわすことが多い。

腰痛、項強、神経衰弱、慢性胃腸疾患、膀胱疾患、生殖器疾患に用いられる。

応用範囲の広い穴であり、灸は効果著明だが針は灸ほど効かない。

「京門」の京は一身の原気の源腎臓のことである。

一名を気府(気が集まる所)、気兪(原気をいやす所)ともいう。


13.環跳

股関節部で側臥して下方の足を伸ばし上方の足を深く屈し、股関節横紋の外端、

大転子の前上部の陥凹部にとる。(経穴概論)

沢田流では大転子の後上際の陥中で、側臥して下足を伸ばし上足を屈すれば大転子の後上際に陥凹部ができる。
これを按圧すると大腿外側より足先に向かって痛みひびくところ。

坐骨神経痛、大腿神経痛、股関節炎に針灸して著効ある穴である。

経穴概論と沢田流では環跳の位置が大転子の前と後ろに分かれている。

大転子の上前方には確かに押すと足の外側に苦しい痛みが走り思わずウッと声が出る穴がある。
ここは大腿神経痛でよく痛みが出るところであり、坐骨神経痛でも痛みを訴える場合がまれにある。
(坐骨神経痛で痛みを訴える場合は臀部から股関節を囲むように痛みがある場合である。)

沢田流の環跳は中殿筋の筋腹のことを指すのではないだろうか?

ここは坐骨神経痛ではほとんどの患者が強い圧痛を訴える場所で、健常者でも押すと痛いが、坐骨神経痛では
特に強い圧痛がある。深部に坐骨神経の枝である上殿神経がある。

膀胱経の所で「中殿筋の筋腹は圧痛が出るのに穴がないのはなぜか?」と述べているが沢田流環跳がその穴なのかもしれない。


14.中トク

大腿骨の外側で分肉の陥中、大腿骨の長さを1尺9寸として膝窩横紋外端から環跳に向かって5寸。

坐骨神経痛、大腿神経痛、脚気に効く。

大腿四頭筋の外側広筋、大腿筋膜張筋(大腿筋膜に包まれた平たくて長い筋で、腸脛靱帯に移行する)、
大腿筋膜(大腿筋全体の表面を包み、よく発達して厚いが外側部は腱膜のように著しく厚くなって腸脛靱帯となっている。)
があり、大腿外側部がどこを押しても痛いのは大腿筋膜が張っているためかもしれない。

なお、中トクの上方に奇穴の風市がある。

大腿外側、膝上7寸、直立して手を大腿外側に当てたとき中指尖端にとる。

中トク、風市ともに坐骨神経痛で圧痛が現れやすく、治療点となる。

15.足の陽関

腓骨小頭上1寸5分、トク鼻の外方の陥凹部。膝の横のくぼみ。(発揮、甲乙)

沢田流ではこの穴の上2寸、中トク下3寸の筋肉陥中にとる。

経穴概論でも沢田流とほぼ同じ、大腿骨外側上顆の上縁にとる、とある。

膝の陽部の関節から陽関の名がある。

腰の陽関(3,4腰椎棘突間)と区別するため足の陽関という。

膝関節炎、大腿神経痛に効く。

また、下腹部の冷えこみを治する名灸穴である。

素問では陽関を寒府といっている。冷えの集まるところである。

臍より上の寒邪を去るには熱府(風門:1,2胸椎間外方1寸5分)を用い

膝より下の寒邪を去るには寒府(足の陽関)を用いる。


16.陽陵泉

腓骨小頭やや前方直下、強く按圧すれば足背にひびく。

浅腓骨神経の経路にあたる。

八会穴の筋会穴。

筋病を主る。ここでいう筋は「スジ」で腱を指す。

坐骨神経痛、腓骨神経痛または麻痺、腰痛、脚気に効く。

内蔵出血(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)に対しては止血の特効穴であり、胃酸過多症には制酸的に働く。

顔面神経麻痺を治するのに必須の穴。

この穴に灸を続けると眉毛の薄い人が濃くなる。


17.陽交

膝から外果まで1尺6寸として外果上7寸、分肉の間、腓骨前縁。

腓骨神経痛または麻痺の時に陽陵泉の補助として使う。

胃経の下巨虚、膀胱経の飛陽、胆経の陽交、外丘は同じ高さにある。


18.外丘

外果上7寸、陽交の後方、一筋を隔てる陥中。腓骨後縁にあたる。

頸項強を治し、特に側頭痛には著効がある。

胆経沿いの坐骨神経痛にも著効がある。

胆経のゲキ穴である。

同じ外果上3寸、腓骨後縁に膀胱経のふ陽があり、坐骨神経痛の特効穴である。

そして外丘はその直上4寸にあり同じく坐骨神経痛の特効穴となっている。

腓骨後縁のラインは坐骨神経痛に効くのであろうか?

神経学的にみて、腓骨後縁のラインは外側腓腹皮神経など皮神経があるだけで、

浅腓骨神経は胆経ライン(腓骨前縁)深腓骨神経は胃経ライン(前脛骨筋)に沿って走っており、
腓骨後縁に主要な神経は走っていない。

ただしふ陽は陽キョウ脈のゲキ穴、外丘は胆経のゲキ穴なのでたまたま両ゲキ穴が腓骨後縁に並んだだけなのだろうか?

もともとゲキ穴は筋間等すきまの部分に多く、腓骨後縁も骨と筋のすきまであり押すと確かに圧痛がある。

ふ陽と外丘を坐骨神経痛に試して効果を確認する必要がある。


19.懸鐘(絶骨)

外果上3寸、腓骨の前縁陥中、外果上4横指、按圧すると足にひびく痛みを感じる。

沢田流では絶骨を腓骨の終わるところと解釈し、外果上前方5分の浅腓骨神経の経路上にとる。(丘墟のやや上)

当初、絶骨の位置が分からなくてあやふやに用いていたが、ある日腓骨前縁をなぞっていくと短腓骨筋と
長母指伸筋がかぶさってきて前縁が不明瞭になる箇所を発見した。「そうか!骨際が不明瞭になる所だから
絶骨というに違いない!」これを発見した時はうれしかった。そして穴の名前の付け方につくづく感動した。

足背神経痛、麻痺、足関節捻挫の疼痛を鎮めるのに針して著効有り。

八会穴の髄会穴。骨髄炎に効く。

簡便なる取穴法は三陰交と同様、手掌をあて四横指を3寸とする。

この外果上3寸には懸鐘、ふ陽、三陰交と重要な穴が並んでいる。


20.丘墟

外果前下方の陥中、押すと痛い。

捻挫では飛び上がる程の強い圧痛があるが、足関節外側に負担がかかっている場合でも強い圧痛がある。

特に、がに股歩きの人は靴の底の外側が早く減るように、足関節の外側に負担がかかっていることが分かる。

このような状態でスポーツなどをすると特に負担がかかり、痛くなってくることがある。

丘墟穴は足関節捻挫に針して著効がある。

通常捻挫は灸で治るが、針だけで治す治療家もいる。その場合この穴を使うのだろうか?

この穴に針すると上方の胆経にひびき、項強、側脇痛を治する。

胆経の原穴。


21.臨泣

第4,5中足骨基底部陥中。

沢田流では丘墟前方約3寸の骨陥中で第4中足骨基底と第3楔状骨との関節部

にあたる。

坐骨神経痛に効く。足関節の腫脹、捻挫には針灸共に効有り。

側腹痛、脇痛など胆経沿いの疼痛を治する。胆石ではよく右側に圧痛を現す。

胆経は全てからだの外側部をめぐる。ゆえに側部は少陽経に属するとみてよい。

口の苦きは胆に属す。これを治するには胆兪の第一行を用いるのがよい。

また胆石疝痛には両側胆兪の第一行に針すること1寸くらいにして即座に疼痛が

緩解する。



足の厥陰肝経


1.大敦
 

母趾爪甲内角(小指寄り)を去る1分。
外角を去る1分は隠白(脾経)

心痛、卒倒、てんかん、ショック、ひきつけ等
痙攣性の疾患に救急療法として効く。

十四経発揮には「母指背面中央」とある。

私はこの中央大敦をめまいのツボとして使用している。

単独ではなく四神総、聴宮などと併用しているので
単独での効果は不明。


2.太衝

第1中足骨基底と第二中足骨基底の関節部の前の陥中。
足背動脈を振れる。

肝臓疾患を主る。肝肥大、肝硬変に効く。

又母趾の麻痺を治し、足底痛にも効く。

昔はこの脈を太衝の脈といい脈診の要所であった。
聚英に「病人の太衝の脈の有無を診て、以て死生を決すべし」
とある。間歇性跛行や脱疽(壊疽:血行障害によって壊死に
陥った組織が腐敗性変化を起こしたもの、外傷、挫滅、火傷、
血行障害などによって起こる)ではこの動脈が振れない
ことがあるが、その他の病気でこの脈が振れなくなると
たいていは数日で死亡する。

また素問に「女子は二七(14歳)にして太衝の脈盛んに、
月事時を以て下る。故によく子あり」とある。

 

3.中封(ちゅうほう)

内果前1寸、前脛骨筋腱の下際の陥中にとる。

肝経の経穴。

足関節炎、痛風、突発性腰痛、胃酸過多症、胆石に著効がある、
と鍼灸治療基礎学にあるが、足関節炎、痛風は圧痛部位に
施灸した方がよいと思う。

又突発性腰痛(ぎっくり腰)の特効穴と書いてある本もあれば、
腰の主治が書いてないものもある。自分で試したが
(腰痛時多壮灸をした)効かなかった。

どのような腰痛の時に効くのだろう?
機会があればまた試してみたい。


4.曲泉

膝を深く屈して膝窩横紋内端にとる。

腎経の陰谷はひざを少し曲げて半腱様筋腱と半膜様筋腱の間にとる。

膝関節痛には欠くべからぬ穴。

また尿道炎、膀胱炎による尿意頻数と尿道痛を去る妙穴。

子宮内膜炎にも効く。

肝経の合穴。


5.章門

11肋骨尖端の陥中。簡便な方法として肘関節を屈して胸に手を当て、
肘尖の当たるところ。

脾の募穴。

脾臓疾患を主る。

胃下垂、胃痛、肝腫大(肝臓の大きさが腫瘍によらず増大する現象、
原因は炎症性の細胞浸潤や浮腫、脂肪やグリコーゲンの沈着、
右心不全による肝鬱血など、かつては肝肥大といわれた)、脾臓腫大
(脾臓は左下肋部で胃底の左後にある80-120gの実質臓器。
老朽赤血球の破壊、リンパ球、単球の生産、血液の貯蔵動員も行う。
感染や門脈圧亢進で腫大する。)に効く。

難経に「臓は章門に会す。臓病これを治す」とあり、八会穴の臓会穴である。


6.期門

第九肋軟骨の尖端で乳頭のやや内方から垂直に降ろした線と肋骨端が交わる所。

上カンと同じ高さである。

肝の募穴。

特に右の期門は、アルコールの飲み過ぎ、肝炎、肝硬変などの肝臓の異常時に圧痛が現れやすい。
この時は肋骨縁に沿って圧痛をとり、施灸する。

医者に見放された肝硬変が期門付近の多壮灸により治った例もある。

また肋間神経痛でも期門付近は圧痛が出やすいので、圧痛を丹念にとり施灸する。

経絡はこれより膈を貫いて肺に注ぐ。

肝経で最も常用されるのは曲泉であり、膝関節痛には欠かせない穴である。

また尿道炎を治する要穴である。

また、章門は腹膜炎の特効穴であり、期門は肝臓疾患に著効がある。

肝経は生殖器を巡るという。子宮内膜炎、月経不順等で肝兪、肝経に反応が現れ治穴となることが多い。

心臓弁膜障害で肝臓が腫れてくると期門に拍動を感じるようになることがある。これにも期門に灸して効く。
(この場合は左期門の方が効くようであると代田氏は述べている。)


督脈


1.長強

尾骨先端の陥凹部

痔核、痔瘻、脱肛などの痔疾患を治すると共に精神病の発作時、
 

てんかんにも用いられる。

督脈と腎経と胆経の交会するところで督脈の絡穴であり分かれて
任脈に行く。


2.腰兪

仙骨管裂孔の陥凹部

主治は腰痛、腰部筋肉の強直、腰部冷感、また夜尿症、痔疾患にも効く。


3.腰関

ヤコピー線(腸骨稜を結ぶ線、第4,5腰椎間)と脊柱の交わるところ。
外方に大腸兪

主治は腰痛および下肢疾患(神経痛、膝痛、下肢麻痺)下腹部冷感、
遺尿症、尿意頻数、膀胱炎、前立腺炎を治す。

この穴に圧痛ある時は骨盤腔内の臓器または下肢に
障害がある場合が多い。

関は出入り口なので陽関は陽気の出入りするところという意味。
膝の外側にも胆経の陽関があるが、ここは素問に寒府とあって
寒の集まるところである。ここに陽気を入れると下肢に陽気を導いて
平衡状態になる。腰の陽関と足の陽関は対応し、針をしても響きあう。
ゆえに腰の陽関も人体下部に陽気を導く関門と解釈すべきである。


4.命門

2,3棘突間にとる。沢田流ではここより上5分より左右に5分ほど
開いたところにとる。

沢田流命門は救急療法に用いる。すなわち激しい頭痛、腹痛、
イレウス、激しい嘔吐、腎臓炎、遺尿に用いて著効がある。
また、小児病一切に用いる。

一般の命門は腰痛、下肢麻痺、痔出血に効果がある。

俗に竹杖という。奇穴に竹杖(へそ返しの穴)があり竹をへそのところで切り、
背部の同じ高さの所を竹杖とする。
主治は腰痛、頭痛、悪寒、痔疾患であるが、ここが命門に当たる場合も
あるが当たらない場合もある。

命門は命の出入り口なので急性症状、小児疾患に用いられるのである。

沢田氏は命門は副腎といっている。


5.脊中

11,12胸椎棘突間にとる。甲乙経に「俛(べん)して之を取る」とあり、
座位で前屈して取ること。脾兪の中央。

沢田氏は中カンと脊中を一緒に灸すると病気の逃げ場がなくなるので
いけないといっている。


.霊台

6,7胸椎棘突間。喘息・気管支炎の咳を治する。

小児喘息の場合、著効があり、身柱と霊台の灸だけで治るものが多い。


.身柱

3,4胸椎棘突間。

@神経疾患を主る。神経衰弱、ヒステリー、てんかん、神経症に効く。

A呼吸器疾患を主る。気管支炎、風邪、喘息、咽頭炎に効く。

B小児疾患を主る。疳の虫、夜泣きなど小児疾患には特効あり(別名チリケ)

なお疲労時にここに灸すると早く回復する。


.大椎

7頸椎棘突下にとる。

頭痛、鼻血、咽頭痛、扁桃腺炎、精神病に効く。


.あ門

2頚椎上の陥凹部。言語障害を主る。

言語障害、舌に障害があるのを治する特効穴。


10.風府

項の髪際を入ること1寸、外後頭隆起直下5分。

風邪を主る。また鼻血、蓄膿症、鼻炎などの鼻疾患に効く。

11.百会

正中線と両耳をつなぐ線の交点。

@頭痛、高血圧、耳鳴り、めまいに効く。

A神経症、不眠症、健忘に効く。

B鼻疾患、鼻炎に効く。

C痔疾患に効く。


12.上星

前髪際入る1寸

鼻炎、鼻茸に効く。



任脈


.中極

恥骨結合上1寸にとる。
 

@膀胱・生殖器疾患を主る。

膀胱炎、尿道炎、前立腺肥大、陰萎、不妊症に効く。

A婦人科疾患に効く。

子宮内膜症、帯下、月経不順、子宮筋腫に効く。

B小児の夜尿症に灸して著効あり。


.関元

恥骨結合上2寸、臍下3寸

治効は中極とほぼ同じ。


.気海

臍下1寸5分にとる。

下焦の原気を満たしめることを主る。

その他腸疾患、腎臓疾患、膀胱疾患、陰萎、夜尿、生殖器疾患

不妊症、子宮筋腫、虫垂炎など応用無限。

虫垂炎の場合はここへ20〜50壮灸すると激痛頓挫させ
軽症なら
それで治ってしまう。

急性腸炎で下痢が激しい時20壮位灸すると下痢が早く止まる。


.水分

臍上1寸にとる。

利水を主る。胃内停水、小便不利、下痢、腹水に効く。

水寫性下痢ではここに圧痛があらわれ灸すると下痢が止まる。


.中カン

臍と胸骨下端の中間にとる。

@胃疾患に効く。胃痛、胃潰瘍、胃下垂、消化不良など。

Aつわりによく効く。

B肝臓・胆嚢疾患にも用いられる。

.巨ケツ

中カンと胸骨下端の中間にとる。

心臓疾患を主る。

心悸亢進、弁膜症、狭心症に効く。


.ダン中

乳頭を結ぶ線と正中線の交点。

心臓疾患を主る。

一切の気病を主る。すなわち神経症、ヒステリー、うつ病等には特効穴。

また乳房痛には効果著明である。

乳汁分泌不足にも効く(+天窓)


.天突

胸骨上カにとる。

沢田流は甲状軟骨上の陥凹部にとる。

気管支炎、咽頭炎、カ声にも効く。

任脈のうち最も大切な穴は中カンとダン中と気海である。

この3穴が三焦の中点となるからである。







特効穴一覧


呼吸器

気管支炎:中府・尺沢・霊台(第6,7胸椎棘突間)

風邪:風門

喘息:兪府・霊台・尺沢

循環器

狭心症:神門・ゲキ門・ダン中

不整脈:ゲキ門

高血圧:百会・身柱・天リョウ(肩井後1寸)・霊台

消化器

歯痛:温溜・ケツ陰兪・下関の鍼

急性胃炎:裏内庭・梁丘

慢性胃炎:中カン・胃兪

虫垂炎:気海・梁丘

下痢:梁丘・崑崙

便秘:神門・左腹結(臍外方3寸5分、下1寸3分)

痔:孔最・中リョウ

胆石:上期門(乳頭線上第9肋軟骨端斜上方2追横指)・胆兪

泌尿生殖器

膀胱炎:中極・曲泉(膝カ横紋内端)

つわり:中カン・陽池

難産逆子:至陰

乳汁不足:天窓・ダン中

小児科

吐乳、疳の虫:身柱

眼科

結膜炎:曲池・和リョウ(耳門上5分)

耳鼻科

鼻炎、蓄膿症:天柱・シン会(正中髪際2寸)・手三里・足三里

中耳炎:太渓

耳鳴り:少海

咽頭炎:尺沢

扁桃腺炎:尺沢・大ジョ・大椎

内分泌

糖尿病:陽池・中カン・脾兪・三焦兪

神経

神経症:百会・天柱・肝兪・神門・ダン中

偏頭痛:正営(百会外方瞳孔上)

雑病

蕁麻疹、湿疹:肩グウ


inserted by FC2 system